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蜜月の刻(とき)

「意外と緊張するものね…」
とにかく彼女らしくない態度で、言葉から焦りさえも感じられた。

アパレル:斎藤珠美

「あたしさ、いくに、初体験の相手はケンジって言ってたけどさ、本当は違うんだよね」
「え? うそ!」
「嘘だったら良かったんだけど、バレちゃったからさ~、別れたの」

珠美は当時、バイト先で知り合った「ケンジ」という男と付き合っていた。付き合っていた…というよりは、付きまとっていた…と言った方が正しいかもしれない。
珠美の話を真に受けるのならば、お互いに一目惚れだったという。だが、明らかに珠美の方がべた惚れで、強引なまでのアプローチは見ていてハラハラしていた。

そう、だから「わかれた」と聞いた時は、おかしいと思ったのだった。

「バイトの終わる時間が中途半端だったじゃない?」

「まぁ、そうだね。バイト上がりに充分遊べたから」

「だからね、週末以外はスナックでバイトしてたの」

「スナック?」

「そう。知らなかったでしょ?」

「うん」

身の回りに「夜の仕事」をしている者がいなかったわけではない。ただ、自分には向かないと思っていたし、珠美も、自分と同じ考えだと思い込んでいただけだ。当然、高校生が働いていい場所ではない。

(もしかして、客の相手をさせられてた…とか? まさか、ね)


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