チューリップ紫

連載『オスカルな女たち』

《 真実を語る 》・・・10

「ば、っか、やろう…!」
 真実(まこと)は言い殴り「なんですぐに言わなかった」と声を押し殺し、ちくしょう、ちくしょう…と小さく何度もつぶやいた。
「よくもひとりになんかできたな…それが10年一緒にいた夫のやることか?」
 自分のことばっかりじゃねーか…と言及する真実に、
「あたしが、一緒にはいられないと思って…気を遣ったんだと思う」
 と織瀬(おりせ)が答えた。
「気遣う場所が違うだろがっ!」
(よりによって…)
 とその時、かすかにドアをノックする音がした。
 そうかと思うと、
「…真実さ~ん、いるの~?」
 吞気な声で診察室のドアを開ける人影があった。
「な…(なにやってんだ)!」
 その姿を捉え、織瀬を右手に抱きすくめたまますぐさまもう一方の手で「しっしっ…」と手を翻した。
「やば…」
 声の主はふたりの姿を見るなり顔を引っ込め、静かに、なかったことのようにしてドアをうっすら・・・・と閉めた。
 幸い体を丸めていた織瀬には、真実の腕に守られていたせいか、ドアを開けた主の声までは届いていないようだった。
(あんの、バカたれがっ…!)
 閉じたドアを睨みつけ、真実は、たった今顔を出した輩を恨んだ。

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