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恋愛体質:date

『砂羽と重音』


3.sister-in-law

高校時代に付合っていた彼は、なんでも言い合える気の許せる相手だった。周りの女子のように、お洒落に気を使ったり、ダイエットしたり、そういう気遣いがまったく必要のな幼馴染の延長のような関係。

『自然体でいられる相手なんてそうそう見つかるものじゃないよ』
『似たもの夫婦っていうの? ふたり、お似合いだわ~』
『そのまま結婚までいくんじゃないの~』
周りの言葉も手伝って、わたしたちはだれもが羨む「理想的なカップル」と称された。

だが、理想と現実はいつもかみ合わない。

どういうわけか、デートはいつも3人だった。
「あれ~こんなところで、偶然」
出掛ける先々に、彼の妹が出没した。
「な、なんで」
ワザとらしく驚いているように見える彼の横顔に、最初はふたりきりが気恥ずかしくて「偶然を装っているもの」と思っていたのだが、2度3度と続けばいい加減にこちらも煩わしく、
「ひとりで行動できないなら、別に出掛けなくてもいいんだけど」
ひとなみに拗ねてみたりもした。

高校生のつきあいなどたかが知れている。よほど特殊な趣味でもない限りたいていはお金のかからないデート、そうなれば行ける場所も限られてくる。とはいえ、そう毎度「偶然出くわす」ほど狭い行動範囲でもない。打ち合わせでもしない限り、示し合わせたような「偶然」などあり得ないのだ。

しかし、彼にはまったく身に覚えのないことのようだった。

妹の和音かずねに、それほどブラコンの要素を感じたことはなかったが、ひとは見掛けで判断してはいけないのだと知る。

砂羽さわさ~ん」
しかしながら彼の妹は「兄を取られた妹」という風でもなく、むしろ人懐こく自分の腕を取り、兄を遠ざけようとした。
試しに抜きで「ふたりで出掛けよう」と言ってみれば、それこそ喜んでついてくる。そして事細かに、家庭内での兄の情報を逐一知らせてくれるのだ。
(なにが目的なんだろう?)

ただのブラコンではない。
友だちがいないわけでもない。
ならなぜ?

母はピアニスト、父はオペラ歌手という彼の家は「音楽一家」と言われるだけあってちょっと特殊ではあった。幼少期には顔を記憶できないほど、両親と過ごす時間はなく、家事一切の面倒は身内でもない若いお弟子さんたちで、それはまるで自宅にいながら養護施設のようだったという。
日々切磋琢磨しているお弟子さんたちの中、たとえ彼らが若く親しみやすい距離にあったとしても立場上は皆ライバルということになる。警戒心が芽生えるのは必至で、おそらく気の休まらない時間を過ごしたのだろうと想像はついた。
『だれも信用できない』
昨日までにこにこと笑いあっていた者同士が、翌日には険悪になる…なんてことは日常茶飯事で、会話もなく殺伐とした環境の中幼少期を過ごした。

気の毒とは思う。だが、それを擁護するのはわたしではない。

(これが小姑って奴だろうか)

悪気のない行動とはいえ、だんだんとそれが苦痛になっていった。
電話をすれば、話の半分は妹との会話。「相談がある」と言われれば無下にもできない。だがそれもたいした内容ではなく、だらだらといつでも話せるようなこと。いつしか彼ではなく、妹と付き合っているような感覚。

自覚のない男に嫌気がさした。
「もう子守はいやだ」
「子守? だから、和音にはちゃんと…!」
「そうじゃない。あんたの子守よ。そりゃ家族は大事だけど、ずっとそれじゃ」

彼がいることは嬉しい。
みんなのように浮かれてみたい。
でも自分には、それを軽く受け流せないものがあるようだ。

とにかく。ふたりとも、まだまだ子どもだったのだ。



2.ambush  4.engagement




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