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恋愛体質:date

『砂羽と重音』


4.engagement

「で。あたしにどうしろっていうのよ。まさか仲立ちしろとでも?」
左手に高菜のおやき、右手にコロネの砂羽さわは、口でストローを迎えに行く。冷ややかな上目遣いに、
「連絡先を教えて欲しい」
ちょっと笑えるくらいに真顔の重音かさねに、更に目を細め、
「当人に確認もなしに?」
「あぁそうか。じゃぁ確認して…でも、拒否られたら困る」
当然手助けしてもらえるものと構える重音の姿勢にイラつき、
「拒否られたら諦めなさいよ」
冷たく言い放ち高菜のおやきにかぶりつく。

「なにもせずに諦められない」
「あぁ、そ」
急かされるように口を動かし、ゴクリ…と飲み込む。右手のコロネを縦に構えたところで、
「オレも協力する。だから」
突拍子もない言葉に砂羽は手を止めた。
「なんの協力? あたしにはあんたに手伝ってもらうことなんてないけど?」
と、つい右手のコロネを重音の前で振る。
「あ、いや。なんかあれば」
「なにもない」
あるわけがない…と、コロネを頬張る。
「借りは作りたくない」
殊勝な態度ではあるがどうにも納得のいかない砂羽。
「じゃぁ、あたしに連絡しないで」
冷たく言い放って再び高菜のおやきを齧る。
重音かさねとの間になにがあるというわけではない。ただ、あとからついてくる和音かずねの存在が砂羽には一番疎ましかった。

「おまえその食い方…」
「なに? 甘いしょっぱいのコラボレーションでしょう。邪魔しないで」
続けざまにコロネ、高菜のおやきを平らげ、ナプキンを探す。
「ほれ」
ぐしゃぐしゃになったお手拭きを見かね、自分の未使用のお手拭きを手渡す重音は、眉がへの字に下がりっぱなしだ。

「とんだアスパラベーコンだわね」
「なんだ、アスパラベーコン? まだ食べるのか」
「違う。あんたみたいな男をアスパラベーコン男子っていうのよ。あ~よかった。解決した」
肉食と見せかけた草食…アスパラベーコンを想像しながら、いや「ウィンナーベーコンか」などと思考を巡らせるが、そんなことはどうでもいい。
「なにが?」
「あんた、ダメ。桃子とうこのことなんか任せられない。あの子は繊細なの」
「そうか?」
「そうよ。だって」
「それは彼女が判断することだろ」
そりゃそうだけど…と口ごもり「でもダメ」と言って立ち上がる。

「豆…」
「それ! それもやめて」
今度はしっかりと右手人差し指で鼻先を指す。座席下のかごに入れられたトートバッグに手を掛け、立ち去ろうとして踵を返す。
「とりあえず! 聞くだけ聞いてあげる。でも!」
重音の顔色を確認した後、
「聞くだけよ。ダメだったら連絡しない。わかった?」
「わかった」
「それだけ」
「あぁ。サンキューな」
ようやっと重音の眉根が真一文字に並んだのを確認して、
「別に」
あんたの為じゃない…と言いかけ「じゃぁだれの為なんだ?」と口の中でつぶやき、
「どうでもいい。モーニング、ごちそうさま」
自問を打ち消すように後ろ手に手を振った。



3.sister-in-law  1.sending wolf




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