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連載『オスカルな女たち』

《 トレース 》・・・6

「羽子! 今さら駄々っ子みたいな真似しないで」
 つい口調が荒くなる。
「ママにくらい愚痴ったっていいじゃない」
「えぇ…?」
(それは愚痴なの…?)
 息を整え、
「羽子ちゃん…」
 声を掛ければ、
「猫なで声出さないで」
 ぴしゃりと返される。
「なによ…」
「なによ、ママ。なんでママはなにも言わないわけ? やっぱりあたしのことなんかどうでもいいんだ」
「どうでもよかったら、あなたをここへは置いておかないでしょうね。羽子(わこ)、あなたは賢い子よ。本当は解っているのでしょう?」
 羽子はなにも言わず、ただ俯くだけだ。
「ママ。パパは、パパががっかりしてるのは解る…けど、あんなふうに無視されるのって」
 ぽとりと一粒、涙がこぼれた。
「そうね、パパは少し頭を冷やさないといけないわね。大事な娘のために、くだらない意地を張るのももう…。いいおじいちゃんにならないと」
 そう言って玲(あきら)は羽子の頬の涙を拭った。
「ココアでも入れるわね…」
「ママ…」
 キッチンに向かう玲の背中を羽子の声が追いかける。
 玲はニコリと微笑みだけを投げ、食器棚に向かった。

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