スパイス

連載『オスカルな女たち』

《 スパイス 》・・・17

 欲しいものは特にない。
 なぜなら全部持っているから…

 仮になかったとして、玲(あきら)なら容易に手に入れることが出来る。

 そんな境遇に置かれている者が欲するのは「不自由」。
 それは「愛情」や「信頼」といった「形のない物」と同じだった。
 玲が幼い頃には持っていなかったもの。

『愛情は冷めたってこと?』
『よくわからないわ。でも、昔ほどのときめきはないわね…』
『ときめき…ねぇ。やっぱりそれは夫婦間には求められないものかしらねぇ』
 つかさ自身、自分に置き換えて考えようとしても思い当たるふしがない。
『でも、嫌いじゃないわね』
 よくよく考えて、さらに自分の胸に聞いてみれば、行きつくところはとりあえず「嫌いじゃない」だった。
『やだ、のろけ?』
 そう微笑むつかさに、適当ではないと感じつつも玲は「そう、かしら…」と答えた。
(うまく言えるものじゃないわね…)
 人はいつも自分のことには疎いものだ。



いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです