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恋愛体質:BBQ

『重音と桃子』


5.explore

重音かさねが妹たちを送りに出た後、ある程度を調理し「続きは室内で」ということになった。
焼き方は尭彦たかひこ雅水まさみを助手に置き、残りは室内の準備。友也ともなり唯十ゆいとは家具を動かし場を広げ、桃子とうこ砂羽さわは洗い物を任された。

「寺井さん、雅水狙いだったらしい」
こそっと、肩を寄せる砂羽に、
「へぇ…ぁ、それで? わざわざふたりを外に」
と、つられて小声で答える桃子。
「まぁお膳立てしたところで、どこまで頑張れるかは解らないけどねぇ」
一緒にK‐popのライブに出掛けて行くほど雅水の性格も好みもしっかりと把握している砂羽には、どんなに寺井が頑張ったところで「どうにもならないだろう」と感じているらしい。
「でも、誠実そうな人じゃない?」
「確かにねぇ。しかも次期社長だし?」
「そうなの? すごいね」
「らしいよ。どんな仕事かまでは聞いてないけど」
「ふぅん」

「それよりトーコは? 気になるひといた?」
「ん~。どうかな」
気になることはないこともないが、砂羽の質問の意図とは違うところにあると思った。
「まぁねぇ。今日はいきなりだったし、なにもここだけで決めることもないんだけど」
どうも砂羽は歯切れが悪い。どこか出し惜しみしているようで気にかかる。
「砂羽は?」
「あたし? あたしは別に、そういうつもりはさらさらないよ」
とはいうものの、重音との過去を聞かされたあとでは、どうにも砂羽が自分桃子を牽制しているように思えてならなかった。
「砂羽。鷺沢さんと…」
「やっぱり! なにかされた?」
「そうじゃなくて」
やはり鷺沢を気に掛けているのか…と、だからと言って会ったばかりの彼のことをどう切り出せばいいのか。
「てか、どうしてそう思うの?」
「なにもないならいいんだけどぉ。聞いちゃったのよねぇ、上石くんの車の話」
「車? ぁあ、シートベルト」
「しーっ!」
すぐ後ろでソファを動かしている上石に目を移す。

「知ってた?」
「うん。なんか妹さんが…キス、されたとかって」
買い物から帰って、いちばん目についたのは和音かずねの上石に対するあからさまなアプローチだった。自分のことよりも、砂羽は重音の妹である彼女の心配をしているのか…と勘違いしたのだ。
「あ~そう。やっぱりねぇ元ホスト、侮れないわ」
「それでわたしが、彼にキスされると思った?」
砂羽の真意がどこに在るのか、カマを掛けてみる。
「まぁ鷺沢のことだから、そんな子どもみたいなことしないとは思うけど、さ」
そう言われてしまうと、実は「キスされました」とは言い出せない桃子。まして砂羽が彼に「未練があるのでは?」と思っている今は、尚更自分の状況が微妙だ。

「彼のことよく知ってるんだね」
「高校一緒だったし」
「付き合ってたんだよね?」
「え、鷺沢が言ったの!?」
「彼は言わなかったけど…」
「だよね。雅水か! もぉあれだけ『言うな』って言ったのにー」
言いながら砂羽は、ついとテラスの方に目を向けた。
「なんで? 別に隠すことなくない?」
「だって黒歴史だもん。いい思い出でもないし」
「そうなの? 話やすいって言ってたよ、砂羽のこと」
「そりゃぁ、あたし全然女として見られてなかったし」
「ふぅん…そうなんだ」

「なに? やっぱりなんか」
「そういうわけじゃないけど」
「あぁ、帰ってきたみたいよ」
「うん」

結局、砂羽の本音は聞けずじまいだった。


 4.feel like   1.defenseless



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