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恋愛体質:BBQ
『重音と桃子』
4.feel like
「雅水はさ、上石さんと寺井さん、どちらかと『お付き合いしたい』って考えてるの?」
「お付き合いっていうより、あたしは。今はひとりになりたくないだけ」
なんだかんだと砂羽を焚きつけておきながら、雅水の本音は、未だ失恋の痛手から立ち直っているわけではなかった。
「振られたからって、さ。楽しめないのはおかしいと思わない?」
「そうだけど。楽しんでる?」
「それなりに、ね。楽しいことはあるじゃない?」
「たとえば?」
「たとえば…あとからやってきた細身の彼は、上石さんと同じ元ホストで、今現在ふたりは共同経営者で…」
「へぇ」
「どうみたって怪しい関係」
「まさか…!」
「じゃないかなーとか。まさかとは思うけど、そういうの想像するだけで楽しくない?」
「雅水らしい」
雅水はいつも、その場の楽しみ方を知っていた。
「けど、」
「まぁ不毛かもね。まだあるわよ」
「なぁに?」
「たとえばあの強面の鷺沢くんが、砂羽の元カレとかぁ、あの和音って妹が…」
「元カレ!? ぁ…」
自分の声に驚く桃子。
「そう、元カレ。ぁ~、かっこ悪いから『黙ってろ』って砂羽に言われてたんだぁ…けど、いいよね」
「へぇ、そうなんだ」
重音の言っていた「聞いてないのか」とは、そういう意味だったのかと、今さらながらに合点がいった。なら彼は、砂羽に会いたくて来たのではないかと勘ぐるのが普通だろう。
「トーコ、聞いてる? なに、ぼーっとしちゃって」
「あぁ。ごめん。そろそろわたしも…お肉が食べたい、なーと思って」
なんとなしに、ひたすらに焼き方を担当している寺井と、その周りに群がる女の子たちが目に留まった。
「やだ。まだ食べてなかったの? ちょっと~」
雅水は立ち上がり、桃子の手を引く。
「ぜんぜん食べてないわけじゃないよ」
「もう。トーコはいっつもそう。遠慮ばかりしてたら餓死しちゃうから」
「そんなこと」
「そんなことじゃないの。そんなんじゃ、欲しいものも手に入れられなくなっちゃうよ」
「それは大げさなんじゃ…?」
そう言って笑い返すが、
「大げさじゃない! 女はときめきがないと餓死しちゃうんだから!」
支離滅裂なようで、意外にも雅水の言葉は胸に刺さった。
いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです