カニ鍋

連載『オスカルな女たち』

《 最初で最後の晩餐 》・・・1


「やっとここに来れたと思ったら、お引越しですものね」
突然思い出したようにふふっと笑う玲(あきら)。
すっかり片付けられたリビングの真ん中にポツンと置かれたダイニングテーブルと、その上には豪華な鍋セットにラメ入りのピンクのボトル。

つかさの新居への引っ越しが明日と迫った週末の夜だった。

「ごめんねぇ、急な話で。その代わり今日の持ち出しはわたしのおごりで」
キッチンで手際よく野菜を切り分けながら、すぐ後ろで食器棚に目を走らせる織瀬(おりせ)に「グラスはそこの奥…」と目配せする。
「そんなこと…。パジャマパーティみたいで楽しいわ」
と、織瀬が持ってきたグラスをテーブルの空いたスペースに促す玲は、他人の家に集まるというと決まって堅苦しいドレスコードの、つまらないホームパーティしか経験がないことを嘆いた。それゆえ、友人宅でのこうした素朴な光景が本当に嬉しそうだった。

「家具は処分したの? それともいくつか持ち出すのかしら?」
 手元を見ながら、キッチンの向こうで忙しく手を動かすつかさに問いかける。

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