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連載『オスカルな女たち』

     《 トレース 》・・・1


「あなたが気になさっているのは、それだけじゃないでしょう?」
 あくまでも語気は静かに、言葉は丁寧…を心掛けてはいたが、かなり棘のある言い方であることは否めない。だが、玲(あきら)なりに、精一杯言葉を選んでいるつもりではいた。
「マンションのこと、心から申し訳ないと思っているわ。でも、お兄様の社宅の話が出た時点でそういうつもりなのだと思っていたから…いずれは。今はそれどころじゃ…とにかく一度帰ってらして」
 つい早口になってしまうところを、喉元を抑えて冷静を保った。それでも、
「大人気ないことしないで! いつまで拗ねてるつもり!」
 と、突如声を荒げた。
「大きい溜息ね。ママ、電話、それ絶対繋がってないよね」
 目を細め、疑わしい視線をくれる愛娘〈羽子(わこ)〉をついと見遣る。
「最後はね。…当り前じゃない、そんなこと言ったら、本当に帰ってこなくなるわ」
 ため息混じりに答える。 
「ほら。パパ、帰って来やしないじゃない」
 憤慨してどっかとソファに腰かける羽子。
「ほらほら、もう少し気を付けて…」
 あなたまで煩わせないで…と、娘にさえも言葉を飲み込み、そのあとを金魚の糞のようについて回る。

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