連載『オスカルな女たち』
《 大切な・・・・ 》・・・14
「ニュースって?」
弥生子(やえこ)は器用に右手で画面を操作し「これよ」と言って、織瀬(おりせ)に画面を見るよう示唆した。そこにはかつて〈巨匠〉と呼ばれた映画監督の訃報が記されており、
「覚悟はしてたの」
ぽつりと弥生子が言った。
「覚悟?」
「入院の前に、きちんとお別れは済ませたんだけど、まさか本当に逝ってしまうなんて」
「え? この監督さんと親しかった…の?」
言ってしまって「はっ」とする。
「まさか…」
「わたしの主演映画、彼の遺作になったわ」
「ぁ…そうなんだ」
一瞬、お腹の中の父親…と疑った。
「え、主演映画!? 聞いてないけど」
「言ってないもの」
淡々と返す。
「でも、宣伝広告くらいは出てるわよ。…てか、あなた芸能ニュースにひとつも興味ないのね。まぁ、真実(まこと)さんもだけど。…ちょっと、起こして」
そう言って弥生子は布団の中で身体をよじる。
「テレビ見ないの…?」
織瀬は枕を背もたれにたてかけ、
「見てるとは思うけど」
曖昧に答える。
「それどころじゃないってこと…? あるいは、よっぽどわたしに興味がないってことよね」
「ごめんなさい…」
「謝らないでよ、よけい惨めになるわ」
「ごめ…ぁ…」
「…もう、ほんっと。あなたたちって退屈させない人たちね」
言いながら弥生子は少しだけ口の端で笑った。
*初めから読み返したい方はこちらからどうぞ( *´艸`)
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