花茶

連載『オスカルな女たち』

《 ブレインストーム 》・・・4

「頼んでおいた〈蒸し物〉持ってきてくれた?」
 気を紛らわすようにそう言いながら玄関ドアを開けると、見たことのない兄の姿に玲(あきら)は目をむいた。
「まぁ…」
「あぁ…」
 照れくさそうにする兄の姿を前にどんな表情で出迎えたのか、自分でも想像がつかない玲だったが「いらっしゃい」と述べた口元は多少引きつっていたに違いなかった。
「こっちよ…」
 明日香のいるリビングに促し、兄〈聖(ひじり)〉を引き入れた。
「聖さま…」
 急に立ち上がり委縮する明日香は、軽い立ちくらみにバランスを崩す。
「明日香…」
 すぐさま手を差し伸べる聖だが、パシリ…と、手のひらを返されてしまう。
「あ…ごめんなさい。平気ですわ」
 触れた手を押さえて顔を背ける。
 毎日同じ職場にいるとはいえ、今の明日香の心境からして厨房と店の中では顔を合わせることはあっても意識して会話をする機会もなかったのだろう。ふたりのぎこちない態度が妙に初々しい。
と、聖が手を伸ばした際、床に落ちた花束が目につき、
「それ…」
 板前である自分の夫の、自宅でも滅多にお目にかかれない私服に、心ならずもときめきながら、さらに自分の為であろうか大きな薔薇の花束に自然と口角が上がってしまう明日香。

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