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連載『あの頃を思い出す』

    3. いくつかの片想い・・・13


「…自分はどうだよ、トイレでナンパ?」
「失礼ね」
「ダンナさんも一目ボレですか? こう、ビビットきたとか」
「ぜぇ~んぜん。あたしがいたことに気づきもしなかったのよ、あの人。でもそれっきりにしたくなかったから、工事の最後の日に電話番号交換したの」
「結構行動派なんですね。告白とかしたわけですか、やっぱり」
 意外な顔をするありさ。
「そこまで直接的じゃなかったけどね。なんでそんなことするのかわかんないって顔されちゃったし」
 もうすっかり話すことには抵抗をなくしたのか、尚季(ひさき)はカチャカチャとテーブルの上を片し始めた。
「尚季さんふられたんだ」
「やーね、瀬谷くん。保留よ。その後しっかり結婚までこぎつけたん…だ、か、ら…」
 言ってしまって後悔する。
「尚季さんがプロポーズしたんですよねー」
 トレンチを持ったありさが台所へと続く。
「へぇー」
「ありさちゃん!」
「あ、また余計なこといいました?…コーヒーでも煎れますね」
 逃げるようにしてそそくさと茶箪笥へと手を伸ばす。
「尚季さんて結構大胆なんだ。俺にもそうして欲しいな」
「なにいってんの!」
「なんて言ったの?」
 当然気になるところだろう。自分に対し控えめな尚季が、過去にそれだけの行動に出るだけの男がいたとは瀬谷にとっては油断ならない事実だ。
「それ聞いてどうするのよ」
「今後の参考にしようかと」
「あーあたしも!」
 ありさにとっても他人事ではない。
「忘れた」
 持ってきたお茶菓子を口にほおりこんで誤魔化す。
「それは嘘ですよね」
「俺もそう思う」
 ふたりの真剣な顔が尚季を責める。
「忘れたの!」
 ありさの運ぶコーヒーを受け取りながら「これ以上はもうはなす事はない」と無理矢理話しを閉じた。
「じゃ、そういうことにしておきましょう」
「そうして」
「ちぇ」
「瀬谷くん!」
「はいはい」



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