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街猫街犬パラダイス、トルコ 1

まさかのイスタンブール

 10月中旬というのに、イスタンブールも日中は暑かった。並木のプラタナスは少し色づき始めているものの、青々と茂り世界中から押し寄せた旅行者を迎えている。
 ヨシオは歴史地区として世界遺産となっている旧市街にホテルを取り、朝からオスマン帝国の財宝を集めたトプカプ宮殿からアヤソフィアへと繰り出した。ガイドブック通りの定番だ。しかし、トラムが通る中央街に出てまずびっくりすることになった。

イスタンブール旧市街の中心スルタンアフメット地区。ごらんのように朝はそれほどでもないが、昼前になると観光客らであふれかえる

 犬だ。それもでかい。レトリーバーぐらいのやつが何匹、いや何頭も歩道をうろついている。噛まれたら、重傷では済まない。旅行者も驚いて警戒している。
 だが、犬達はいたって穏やかで、人懐っこく尻尾を振って誰にでも寄っていく。ヨシオも最初は避けていたが、よく見るとどの犬の耳にも小さなコインぐらいの標識が埋め込まれていて、管理されていることが分かる。つまり野良犬ではない。
 そらそうだろう。世界の大観光地イスタンブールで、旅行者が大型犬に襲われるようなことがあろうはずがない。トルコ政府も放っておくはずもない。

犬の後ろがトラムのスルタンアフメット駅。イスタンブールを訪れた旅行者はほぼ全員が利用する。トプカプ宮殿やアヤソフィア、ブルーモスクなど世界的な秘宝が集中している

 まあ、彼らに人への敵意などがないことが分かり、ヨシオもひと安心、トプカプ宮殿に向かった。日本では古墳時代にあたる昔から世界都市として栄えたイスタンブール。旧市街は平坦な道は少なく、トラムが走る通りを除くと、細い坂道が広場やモスク、ホテル、レストランなどをつなぐ。
 平面的な京都などとはまったく異なり、いくつもの丘に広がった街。ヨシオはガイドブックの地図を穴が空くほど見て頭に入れてきたものの、実際に歩いてみないと土地の感覚は分からなかった。
 中心街から路地に入って行くと、今度は猫、猫、また猫。ねこだらけなのだ。

民家か商店かは分からなかったが、品良く飾られていた

 彼ら彼女らもまた、ヨシオがしゃがみ込んでカメラを向けても、逃げる気配すらない。
 出発を前に、イスタンブールの歴史を数冊読んで、街の成り立ちや史跡などの情報を整理してきたヨシオであったが、難しいことは差し置いて、旅は犬猫たちの歓迎で始まった。

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!