行動が先か、肩書きが先か
先日、コンディショニングコーチの肩書を持つ方からコンディショニング指導の様子を見せてほしいという連絡がありました。実際にお会いし、会話の最中に現在の指導の状況を聞いてみると、まだ指導の経験はなく「コーチの資格を所得した」ということでした。
ある名称、肩書きを名乗った時から自分はそうなるのか、といった疑問を抱えていたここ数年間でした。
私もコーチングを始める前にコーチという肩書きがついたり、自らつけたりしたことがあります。しかしコーチングをするからコーチなのであって、名乗ったからコーチではない、というのが今思うことです。
ランニングクラブの手伝いに行っていた頃、そこではコーチという役割になっていました。しかし自分がやっていたのは予め用意された練習の設定ペースを先導する、練習後にお客さんの質問に応答するなどで正直コーチングをしているとは言い難い状況でした。
東京農大のコーチになった当初も生徒の指導をしているというよりは監督の手伝いをしているだけで、コーチングをしていたとは言えません。こんなんでコーチと名乗る自分に内心恥ずかしさすら感じていました。
振り返ると私のランニング指導のスタートは、知り合いの女性に対してでした。勤めていた会社がマラソン大会の協賛のため、その枠で急遽ハーフマラソンを走らないといけなくなったことで指導をお願いされたことです。
当時はランニングのコーチになりたいとかは考えていない時でした。運動経験がほとんどない方だったので今まで自分がやってきた練習のやり方は参考になりません。それでも、「ハーフマラソンの完走くらいならちょっとずつ走る距離を増やしていけば問題ないだろう」と考えていました。
指導開始前には「最初の練習はこれくらいで、来月はこのくらい増やして」、など相手の現状も確認せずに勝手に理想の練習の流れを組み立てていました。しかしいざ最初の練習の日になると、まずシューズが普通のスニーカーということに気づきます。10分もしないうちに心肺、身体共に限界が来てその日の練習はストップ、その後1週間近くは筋肉痛がひどく次の練習を行えませんでした。
最初に抱いた理想の練習像はあっけなく崩れ、考え直すことを余儀なくされました。
その後も急遽仕事が入る、出張、体調不良など練習ができないことがしばしばありました。
「ちょっとずつ走る距離を増やしていく」という考え方は間違ってなかったと思いますが、「ちょっとずつ走る距離を増せない理由」は個人の状況によって違うということを学んだ時だったと思います。その日やる気が出ないなどの心理的理由もあれば、仕事などの生活的な理由、また故障、病気などの肉体的理由もあります。
個人の状況に介入するほど最初は考えになかった予想外の問題が起こります。その度に目標達成に向けて対策を考え直していかなければいけませんでした。
色んな困難はありましたが、無事に目標のハーフマラソン完走(制限時間2時間30分という条件あり)を達成できました。コーチという役割を頂いたり、自ら名乗った時ではなく、実際にコーチングをやった時が、つまりこの時が私の初めての指導経験で、コーチとしてのスタートだったと思います。(当時はそんなこと気づいていません)
花王陸上部に対しては選手の故障予防、パフォーマンス向上を目的にコンディショニング指導を行います。監督と選手が決めた練習の流れの中で変化する身体の状態(低下した関節の機能、筋力、バランス)を整えることが役割なので、ここではコーチングとは違った関わり方になります。
東京農大駅伝部のコーチを終えた後も、希望する学生へのサポートを引き続き行います。どんな練習をやるかというよりも、どのように目標に向けて練習を考えていくのかといったアドバイスで直接的指導とはまた違うのでコーチングというよりはメンターシップ的な関わり方でしょうか。
個別のクライアントには目標に向けて直接的な指導から個人でのプラン作りまで総合的な指導となるので、ここではコーチングになります。
トレーニングメニューなどの「何をやるか」が先行しやすくなっていますが、実際には個人の課題を「どう解決するか」を考えて、そこにトレーニング手段として「何をやる」が出来上がります。
色んな関わり方が増えてきましたが、どの関わり方においても共通することは、「相手の目標を確認し、現在の状態の理解に努め、今必要と思うことを行う」ことだと思います。
クリニックなどで講師を務めた時は相手の状況が分からないので、事前にメニューを決めておく必要があり、参加者がメニューに合わせる形になります。
練習会やクリニックをリードするにはまた別のスキルが必要になるのかなと感じました。
その時の状況で必要だと思うことを行なっているうちに肩書きはついてくるのかなと思います。そして固定的ではなく、流動的に変化するものです。
日常からの学び、ランニング情報を伝えていきたいと思います。次の活動を広げるためにいいなと思った方サポートいただけるとありがたいです。。