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「ソクラテスの弁明」プラトン著 書評


<概要>
「ソクラテスの弁明」のわかりやすい現代語訳とともに、その解説や読み進めるにあたってのキーポイントなど、翻訳者の丁寧なサポートが得られる著作。

<コメント>
ソクラテスの死に至る裁判を題材にプラトンが脚色したのではといわれる「ソクラテスの弁明」。

有名な「無知の知」が掲載されている著作ですが、より正確には「不知の自覚」

ソクラテスの弁明の中では、「不知」と「無知」という言葉が使い分けられていて「不知」は価値あることを知らないという事実を表すニュートラルな意味を持つのに対し、「無知」の方は、本当な知らないのに知っていると思い込んでいる、恥ずべき状態のことを指す(読書の学校 西研「特別授業」ソクラテスの弁明:第2講より)

◼️不知の自覚
「ソクラテスはポリスの信じる神々を信ぜず、別の新奇な神霊のようなものを導入するが故に不正を犯して、かつ若者を堕落させている」という告発に対し、

ソクラテスの言い分を簡単に整理するとこうなる。

①神は人間を超えた絶対的な存在である
②神は「真実・美・正義」といった大切なことを知っている
③私(ソクラテス)は、そんな神を敬っている。
④だから神にしたがって「真実・善・正義」を大切だと思っている
⑤ところでアポロ神の信託「ソクラテスが最も知恵者である」ことを確認してみた
⑥そうすると自分だけが「知らないことを知らないと思っている点(不知の自覚)でどの人よりも知恵者であることがわかった」
⑦つまり「不知の自覚」こそアポロ神の信託であり、神が大切とする「真実」
⑧若者にも、この「真実」を伝えている
⑨なのに裁判にかけられているのは不当だ

こうやって自分の行動や言動は「神を信じるからこそ」というロジックにより「神を信じないなんてあり得ない」との弁明ですが、これは理解されずに有罪→死刑となってしまうのです。

*ここでは、学問全般にとって最も重要なことが既にソクラテスによって「不知の自覚」という形で提言されていると思います。つまり

 「絶対はないと思え。すべて疑ってみよう」ということ。

学問とは開かれたテーブルによって常に検証されアップデートされていくもの。2500年前に生きていたソクラテスの「不知の自覚」から導かれる現代への知恵なのかもしれません。

◼️死刑の受入
「死を受け入れる」ということに関しても「不知の自覚」の論理が登場します。

①死というものを誰一人知らない
②死が人間にとってあらゆる善い事のうちで最大のものかもしれない
③なのに最大の悪だとよく知っているつもりで皆恐れている
④つまり、知らないのに知ったかぶりをして「悪」だと決め付けているのが「死」
⑤まさに「知らないものを知っている」という恥ずべき無知

だからソクラテスは死を受け入れたのですね。

でも残されたものにとっては「死んだ人とは対話ができない。温もりを感じることができない」つまり死によってコミュニケーションの断絶が起きるわけですから、それをもって「悲しむ」のは当然ではないかと思いますが、そんなことよりもソクラテスにとっては「不知の自覚」の方が大事なのかもしれません。

*写真:ギリシア アテネ市 シンタグマ広場とギリシア議会議事堂

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