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人間身体の歴史と機能 「人体」 書評

「ホモ・サピエンス全史」のノヴァル・ユア・ハラリや「昨日までの世界」のジャレド・ダイアモンドのネタ元となった本ではないかと思います。これも本当に名著です。

人間は誕生以降、現在に至るまではこんな感じです。

■寒冷化:人間の祖先の環境が激変

1000万年前から500万年前の間に地球全体の気候がかなり寒冷化。アフリカで、熱帯雨林が収縮し、疎開林帯が拡大。果実が以前ほど豊富ではなくなり、あちこちに分散して、しかも一定の季節にしか採れなくなる。

■二足歩行:ヒト属(サヘラントロプス)の誕生(700万年前と推定)からアウストラロピテクスへ(400万年前と推定)

熱帯雨林の森の中で生活していた祖先は、食べ物をより遠くまで探すため、まっすぐに立ち上がって二足歩行し、食料を探すようになる。チンパンジーよりも腰椎は1個多く5個。2足歩行に要するエネルギーはチンパンジーの3分の1。採集のために毎日6キロは歩いていたらしい。

■地下貯蔵機関の発見

地面から塊茎や球根や根茎を掘り出して、炭水化物を摂取。

■集団生活と食肉:ホモ・エレクトス(190万年前)

オスのチンパンジーは食べ物を分け与えないが、狩猟採集民は分け与える。260万年前には肉を食べていた。天敵に邪魔されずに採集できるのは日中の暑い中。暑い中で長距離を移動できるのはホモ属だけ。唯一汗腺が全身に発達し、体毛が細くなり体温調整ができる。手で投げる能力があるのも、ホモ属だけ。

チンパンジーは食事と消化に半日以上を費やすが、道具を使える狩猟採集民はもっと自由な時間が使える。そして腸が短くなることで、脳に栄養を回すことが可能になる。

■ホモ・サピエンス(20万年前):ここからが種としての人間の誕生:現生人類

現生人類は、食料加工によって食べ物の咀嚼が簡素化し、この結果としてのその独特の短い引っ込んだ顔のおかげで明瞭で聞き取りやすい言語を非常に速いペースで発することに長けていた。つまりこんなに弁舌さわやかな種は現生人類のみ。

■農業の発明(1万年前):ここからが人間の不幸の歴史という人も

農業の発明によって栄養環境は悪化し、長時間の労働を強いられ、虫歯は増え、身長は低くなった。

*「アマゾンのある部族では、男性の半数以上が人に殺されている。男性が非業の死を遂げる割合は、戦火にまみれた20世紀のドイツよりも、狩猟採集民の社会のほうが高い(「やわらかな遺伝子:第9章」マット・リドレー著)」ので、狩猟採集社会の方がいいわけがないのですが。。。

◼️総括

「人間は2足歩行が全ての源泉」だったのですね。2足歩行するようになったから汗腺が増えて体毛は細くなり、道具を使えるようになって食料を加工できるようになって食事時間が短くなって腸も短くなって脳がでかくなって、口の周りが言語をしゃべられるようになって、と全ての偶然が見事に調和して現生人類が今に至るのはほんと奇跡のようなことですね。

現代人は、文明的進化が早すぎて自然選択的進化が追いつかず、環境と身体のミスマッチが起きている状態。そのミスマッチが病気となって現れる。うつ病、糖尿病、各種アレルギー、心臓病などなど、「昨日までの世界(1万年前の農業が発明されるまでの世界=環境と自然選択的進化が整合していた時代のこと)」にはなかった病気が現代にはびこっているのはそのミスマッチのせいだ。

結局人間の身体って、原始人(=狩猟採集民)のままなんです。

つまり農業が発明される1万年前から、人間の身体は遺伝的には何も変わっていないのです(もちろん大枠ではそうなんですが、大人が牛乳が飲めるようになったなどの小さな進化はしていますし、西洋人・東洋人の食生活にまつわる身体の違いもあります)。

だから現代人が抱える様々な病気は、この1万年間さらに産業革命の18世紀以降の文化的進化が急激すぎて、遺伝的な整合性が取れなくなってしまった結果だというのです。

そもそも、繊維質が多い食べ物のせいで咀嚼に多くの時間を割いていた時代、食べ物を探して毎日10キロ以上歩いていた時代、雑魚寝で移動しながら住まいが一定しない時代、そして常に空腹だった時代などなど、今の常識とは全く違う時代に生きていたまんまの身体で人間は現代を生きている。

その中で、原始人の時代にはあり得なかった病気、糖尿病だとか、アレルギーだとか、脳溢血だとか、多くの病気は、現代生活と原始人のままの身体とのギャップから、おきてしまう病気。

例えば、食生活については、パン、ご飯、麺類など、農業が発明して以降、普及した穀物を主食とした食事は、実は人間の体にとっては不都合な食事で、実は身体に良くないということ(これも異説ありますが)。

原始人は、採集で種や葉っぱもの、根茎などを常食としながら、不定期に狩りで魚介類や獣系でたんぱく質を補給するなど、デンプンを主とした穀物類はほとんど食べていなかったことなど、なるほどと思う内容が満載。

文化的進化によって、先進国・新興国(地球全体の90%)の人間は衣食住がほぼ満たされ、大枠で幸せな生活はしているものの

「ある程度の原始時代と同じ負荷を与えていかないと、健康を阻害する場合がある」

という視点は持ちながら生活すると、実はより健康で幸せになるということだろう。

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