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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2020年8月の記事一覧

「偶然の科学」ダンカン・ワッツ著 書評

<概要>世の中は予測可能な事象と予測不可能な事象があります。 物理学や数学は誰からみても同じ普遍的な法則があって、予測可能な事象ですが実社会は予測不可能な事象で、常識と思っていることでも偶然の結果が殆ど。 したがって現実社会を扱う社会科学系の学問は、普遍的法則を追っかけるのではなく、中範囲の法則や測定と迅速な対応による戦略によって法則を導き出すべきと提言した著作。 <コメント>自然科学と社会科学の根本的違いを紹介した著作。 自然科学は「対照実験(※)」によって仮説を立

学生にとっては、既にAIの限界が常識に

先日数学者新井紀子さんのベストセラーを読んだばかりだったのですが 彼女による東洋経済の昨日アップされた最新記事(2020年8月26日)を読むと 既に、汎用AI信仰やシンギュラリティは、AI専攻の学生の間では夢物語として、過去の遺物化しているらしい。 最近は、AIが現実社会の中に浸透してきて、Googleの翻訳機能や、アップルのSℹ︎ri、Amazonエコーなどを日常生活で利用することも多い。 そして実際使ってみてその限界などを体験すると発展途上技術の未熟さとは異なる、

コンビニ人間 村田沙耶香著 書評

早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が「店員」という均等な存在だ。 人間の価値観を切り出して、相対化する小説。 一見当然と思っている社会を、別の価値観から見ると、おかしなことに見えてくる。でも諸行無常の世の中、価値観はどんどん変化する。空間と時間の掛け合わせで価値観は変わっていくのだ。コンビニという価値観を使ってそれを見事に表現

「ヒンドウー教 インドという謎」 山下博司著 書評

<概要> 地学・地理学・歴史学的な見地から、ヒンドゥー教の外的環境を整理した上で解説していくので、非常に説得力があって興味深い。著者自身インドにも長期間滞在してきたこともあって、土着宗教であるヒンドゥー教の性格をよく捉えられていると思います。 *本書の構成は、思想が自然環境などと関連づけて述べられているなど「思想のテロワール的視点」が見受けられ、個人的に非常に共感するストーリー展開でおすすめです。 <コメント> ◼️ヒンドゥー教を生んだインドの環境と文化 インド亜大陸は、

鏡のなかのギリシア哲学 小坂国継著 書評

<概要> ギリシア哲学をタレスなどのソクラテス以前の哲学から、プラトン、アリストテレスを経て、ストア派から新プラトン主義のプロティノスに至るギリシア哲学を西田幾太郎的・東洋的視点から俯瞰した著作。 <コメント> 西田幾太郎研究の第一人者、小坂国継先生によるギリシア哲学概観。オープンカレッジでも小坂先生の講義を受講しているのでギリシア哲学勉強の一環として読んでみました。 ギリシア哲学といえば、ソクラテス・プラトン・アリストテレスになりますが、ソクラテス除く2名に加え、ストア

ピダハン「言語本能を超える文化と世界観」書評

<概要> 言語学者でありプロテスタントの宣教師である著者が、アマゾンの狩猟採集民族ピダハンへの布教と新約聖書のピダハン語への翻訳を目的に長期間家族と共に滞在し、最終的には無神論者になった著者の記録。前半は著者の冒険記とピダハン族の文化紹介。後半はピダハン語の紹介と言語学的分析に加え著者自身の心境の変化についての記録。 <コメント>◼️ピダハンの価値観 これは数十年間にわたる著者の人生と信仰をかけた壮絶なる記録。本書はチョムスキーなど主流となっている言語学のセオリーとは異なる