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「うみねこのなく頃に」とセンス・オブ・ワンダー

※この記事は「うみねこのなく頃に」のネタバレを含みます。

センス・オブ・ワンダーという言葉をご存知でしょうか。

SF用語で、特に異化作用が発生した際に感じられる感覚のことを指すそうです。

私も最近知りました。

世界の神秘に目を瞠るような不思議で面白い感覚。
何か自分で体験した覚えはないかと記憶をたどるうち、ふと、「うみねこのなく頃に」の完結当時の現象に私が抱いた感覚は、このセンス・オブ・ワンダーに当てはまるのではないか、と思い当たりました。

その時のことをちょっと書き留めておこうと思います。

PCノベルゲーム「うみねこ」は、主に、ミステリーを謳ったのに真相が明確に描かれなかったことが批判され、最終話公開当時、ネット上は賛否両論、どちらかといえば否定的な意見が目立つ状態でした。

加えて、総プレイ時間100時間越え(マンガですら50巻分)のとにかく長大で、キャラ数が多くて複雑すぎる物語であることも手伝い、肯定的な側からも「自分は面白く読めたけど他人に薦めづらい」という評価を受け、あっという間に過去のものとして忘れ去られていきました。
(かくいう私も、人に薦めるのは躊躇してしまいます。)


この世間の評価とその顛末が、私にはベアトリーチェの物語と重なって見えて仕方ありませんでした。


長い物語のラストに描かれた、ヒロイン・ベアトリーチェの望みは2つありました。

1つは、静かに忘れ去られて終わること

物語中盤、ベアトリーチェは戦人と遊ぶために作り上げた謎解きゲームを他人に乗っ取られてしまい、意図しない方法で好き勝手遊ばれる羽目に陥ります。
その遊び方があんまりにも酷く、この事態に辟易したベアトリーチェは、そっとしておいてほしいと告げます。

そして、2つ目の望みは、誰かにその心を理解してもらうこと

物語完結時の外伝作品にて、ベアトリーチェの本当の望みは、「わかる人にだけその心をわかってほしいというものではないか、と語られます。
万人に理解されずとも、理解者が一人現れればそれでいい、ということですね。それが戦人なら、最高の結末です。

そして、それらの言葉の通り、わかって欲しかった人からの祝福だけを受けて、ひっそりと人々から忘れ去られる、という形でベアトリーチェの物語は幕を閉じました。


「うみねこ」というゲームは、今となっては完結までの一時の熱狂はあったものの、多くの人から顧みるべき作品には数えられず、忘れ去られています。

一方で、一部の「わかった」コアなファンからは宝物のように愛されており、その扱いは対極的です。

まるで、ベアトリーチェの最後の望みを叶えるかのように。


客観的に分析すれば、これは「うみねこ」がメタフィクションの構造を持つ物語であること、メタフィクションと親和性の高いゲームという媒体で配信されていたこと、そして何より、私がベアトリーチェというキャラクターに魅了されていたことが合わさって起きた錯覚でしょう。

同じ時代に「うみねこ」を楽しんだ人のうち、同じような感慨を覚えた人は一体どれくらいいることか。少なくとも私の周りでは、お見かけしたことがありません。

しかし、当時の私は確かに、その意図されていないはずのフィクションと現実を超越した重なり方に、神の見えざる手の存在、あるいはセンス・オブ・ワンダーを覚えました。

私が今なお、誰かの「うみねこ」に関する言葉を探してしまうのは、その衝撃から未だ覚めておらず、共有できる相手を探しているからなのかもしれません。


注:最初に書いた通り、「うみねこ」の風化が早かった理由は決して結末だけではないと考えています(話の複雑さやアニメとの相性の悪さなど)。
ベアトリーチェの望みもエピソードを追うごとに変化しており、竜騎士07氏が意図してこの顛末を引き寄せたと考えるのは、私からすると陰謀説に近い無理筋を感じてしまいます。


この顛末が「うみねこ」やそのファンにとって幸せだったかと言えば、決してそうだとは言いません。
やはり、アニメでも後半をやって欲しかったという気持ちは今でもあります。欲を言えば、エッセンスをきちんと整理した初心者向けの新章を作って欲しいです。

また、マンガから入って楽しんで下さっている方は、原作の顛末なぞ知らなくていいと思っています。
どうぞゆっくり六軒島の2日間を楽しんでください。

じゃあ何故こんな記事を書いているのかと言えば、そういったファンとしての気持ちとはまた別に、一つの面白い現象に出会い、その後も私がメタフィクションに惹かれる原因となった原体験を言葉にしておきたいと、ずっと思っていたからなのでした。


古いオタクのお気持ちということで、ここはひとつ。

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