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ぐるりと、旅をはじめましょうか

「東川町に住んでる同世代のフォトグラファーの女の子も連れてきていい?」

神奈川出身の私が北海道東川町に移住して3ヶ月。心の中で湧いてきたのは「友達がほしい」という感情だった。三十路にもなって。

彩り豊かな季節が寂しく変わる時期に、友達つくりたいがために鍋パを開催した。参加する友人たちのメッセンジャーグループに問いかけと一緒にひとつのURLが投げ込まれた。

淡い色合いの写真たちに見入ってしまった。きっと優しいひとなんだろうな。

紆余曲折たちが集う交差点

その週末に鍋パは開催され、えりさんとの初対面を果たした。鍋を囲むのはそれぞれの経緯で東川町に移住してきた最近できた友人たちだ。(これまたみなさんおもしろいのです)

「え!フォトグラファー歴2年なんですか!?」

てっきりずっとフォトグラファーとしての道を歩んできたと思いきや、2年前までは千葉のインテリアショップの販売員だったという。東川に拠点を置く写真家の井上浩輝さんの展示会をそのインテリアショップでやることになり、その写真展企画の担当に手を上げたところから、彼女の人生がぐるりと動き始める。

やると決めたらとことんのめり込んでしまう性分らしく、魂込めてやり切った展示会の後に、彼女の手に渡されたのはひとつのカメラ。井上さんから、すごくよかったから、とプレゼント。

そこからは怒涛だった。井上さんの撮影に同行させてもらったのがきっかけで北海道に通い始めて、連休があれば弾丸で北海道に行き、動物や自然の写真を撮るという日々を送った。もっともっと、この場所にいたい。北海道に行くたびそう感じて、帰ることが毎回切なくて涙が出そうになったという。彼女の気持ちが固まるのは早かった。写真を撮り始めて1年後には、「販売員を辞めてフォトグラファーになります」と告げていた。

決めた時の決断力としなやかさ、そして好きな写真や動物のことを話すときの表情に、かっこいいなあ、と惚れ惚れとした尊敬の気持ちが湧いてきた。

「わたしやると決めたら周りの声が耳に入ってこなくなる猪突猛進型なんですよね。だってやりたいんですもん。笑」

あ、似てるかも。と思った。2年前は私も都会暮らし都会で仕事をしていた。でも4年前にデンマークに渡航して、理想の学び舎を見つけてやりたいことができてしまった。周りからは無謀だねと言われるけど、やりたいことと止められないことはしょうがない。リスクは承知であとはこの道を正解にしていくだけ。自分たちの無謀さに笑いながらも、夢を語り、互いに刺激をもらう、そんな友達ができたことの喜びを噛み締めていた。

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野付半島への旅

えりさんに大切なことを共有してみたいと思ったのは、今年の2月に一緒に野付半島の旅へ行ったところでの出来事。3泊4日、ひたすら二人部屋でごろごろしながら話をする。人生、恋愛、仕事観、将来のこと。

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ベッドに転がりながら、好きなCMの話になった。カロリーメイトのCM。

「この人とわたし、すごく似てるかもしれない」

とにかく感動しい。感動のバーが人よりも低い。CMなんて、泣かせにきてるのをわかりつつもしてやられてしまう。人に入り込みすぎることで仕事が効率的に進まない。そんな自分を不器用だなとまどろっこしく思いつつ、誇りにも思っている。

選んだ道には正解がない。誰かが作ってくれた道を辿ればいいわけでもない。感性を頼りに飛び込んだ自分には胸をはりたいけど、なりふり構わず進むほど強くはないから、ぶれながらも等身大で進む。いつか振り返った時に「やっぱりこの道がおもしろかったわ」と笑い話にしたいよね、と。

帰った後のお風呂の中で、えりさんとなにか一緒にやりたいなあ、と思ったら気持ちが止まらなくて気付いたら長文のメッセージを送っていた。

「えりさんが撮って、私が聴き書きして。この町に住んでいる、誰かのちいさな物語に焦点を当てたインタビューを一緒にやりませんか?」

わたしのふつう、というとくべつ

ひとりの物語に焦点を当てて、覗き見させていただくたびに、知らない世界が広がるのを発見する。同じ人生なんてひとつもないし、有名人でも伝記に残るわけでもないけど、みんなそれぞれの人生を生きている、唯一のひと。誰かの小さな物語に心が震える。

山奥で暮らすおじいちゃん、美味しい食パンを焼くのが得意なお母さん。

わたしのふつうは、きっとだれかにとってのとくべつ。

世をずらせば真ん中

会社員生活をやめて、東京から飛び出して、わたしたち自身もはみだしものかもしれない。いろんなひとがいる。力強く生きてるし、ニッチでもその道を極めている人はやっぱりかっこいい。

私たちが住んでいる町大雪山近郊を中心に、自分で決めた真ん中を生きている人たちに会いながら、世界を広げていきたい。

この話をしながら、星野源好きのえりさんがとある曲を教えてくれた。

僕は生まれ変わった 幾度目の始まりは
澱むこの世界で 遊ぶためにある
配られた花 手札を握り
変える 運命を

あぶれては はみ出した
世をずらせば真ん中
(『創造』星野源)

Grulitoの大雪なものがたり

ということで、はじめまして!

大雪山の麓に住む、撮り書くユニットGrulitoです。まわりみちをしてぐるりと人生が変わり、ぐるりとまわりみちをしたから出会ったわたしたち。

私たちが紡ぐ大雪なものがたりが、誰かにとってのぐるりとになればと願いながら、綴っていきたいと思います。

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写真左:清水エリ / Eri Shimizu(撮るひと)
1989年、千葉県生まれ。
前職で企画・運営を担当した写真家 井上浩輝氏の写真展の仕事をきっかけに写真と出会い、カメラを手にする。2019年、北海道・東川町に移住。写真家 井上浩輝氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動中。クライアントワークの撮影をしながら、日々の暮らしを写真に撮る毎日を送っている。

写真右:安井早紀 / Saki Yasui(書くひと)
1990年、神奈川県生まれ。
3年前にデンマークのフォルケホイスコーレに訪問して一目惚れしたことをきっかけに、日本にそれをモデルに大人の学び舎をつくりたいと株式会社Compathを設立。2020年7月より北海道東川町に移住して、学校づくりのための実験/実践中。それまでは、リクルートで人事をやったり、島根で高校生の国内留学(地域みらい留学)を広める活動をしたり。大人とこども、学ぶと働くに関わる仕事を、行ったり来たり。

追伸
「大雪なものがたり」という名前は、私が東川町で父母のように慕っているファーム・レラさんの「大雪なたまご」から影響を受けて、名前をいただきました。いつかファーム・レラの新田さんご夫婦もご紹介したいなあ。

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