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本が知らない世界へ旅に連れ出してくれる(北海道東川町在住/pagewoodなつみさん)

本の止まり木「ブックカフェ pagewood」

本にのめり込み始めたのは小学生のとき。『世界の怖い話』ってドラキュラがアンソロジーで入ってる短編集が好きだった。中学生は『なんて素敵にジャパネスク』の平安時代の世界にハマって。高校時代はよしもとばななから始まり、谷崎潤一郎の『細雪』はセリフを覚える勢いで読んだの。

カラカラと鈴の音を鳴らしてドアを開けると、温かく店内を照らすオレンジ色のランプ、焦げ茶ビンテージの戸棚や小物、カフェオレの優しい香り。
東川町のpagewoodは、本が大好きななつみさんが営むブックカフェです。

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東川町の中心部からキトウシの山の方へ車を走らせていくと、森の切れ目に可愛らしい家がpagewood。広いガーデンの四季を彩る木々に足を踏み入れると、絵本のなかに入り込むような気持ちになります。

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「なつみさんが本を好きになったのはいつからですか?」と聞くと冒頭のようにたくさん本を挙げてくれました。そんななつみさんがひとつずつ選んだ絵本に児童書や文庫本が、ブックカフェの空間いっぱいに並んでいます。

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本棚の索引ポップには、ひみつ・いたずら・ゆめ・おくりもの。ひとつひとつ読み込んでるからこそのポップに心躍ります。いたずらの絵本なんて、想像するだけで隠し事してる気持ちににやにやしてきちゃう。

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店内の一角には、子供たちが本屋さんごっこができる空間もありました。絵本でお馴染み「ぐりとぐら」も一緒にお店番。

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pagewoodで過ごしながら、壁一面に置いてある本を読むことも、買うこともできます。私が個人的に好きなのは「めぐる本棚」。ひとつ本を持ってくると、めぐる本棚にある本をひとつ持って帰ることができます。どんぴしゃな本に出会った時なんかは、持ち主だった人を知りたいような、知らないままでいたいような。

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ずらっと並んだ本からどの本を手に取ろうか迷う時もある。そんなときはなつみさんに「いまこんな気分で、この著者が好きで、おすすめの本ありますか?」と聞きます。なつみさんは毎回目を輝かせて選書をしてくれるのです。行くたびに、私だけでは出会わない本の世界へと案内してくれます。

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本が出会いを紡ぐ人生

高校時代から会社員時代、子育て中の今に至るまで、なつみさんの本との出会いの旅は続いています。

大学に入ると文学部でフランス文学と北欧デザインに夢中になる。就活氷河期時代、卒業してから何をしようと迷っていたところで文学部の事務の仕事を見つける。好きな本をいくらでも読みながら仕事をできる自分にはぴったりだと思った。三年経って地元で職探しをしたときは面接官とフランス哲学の本で盛り上がった。転職したその職場で夫と出会った。

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本と出会い続け、本が出会いを紡いでるなつみさんの人生。点と点の連なりの先に、pagewoodが存在してると思うと心にぐっとくるものがありました。

子育てと絵本の思い出

結婚・出産後は日本全国を転々とする生活が始まった。子供を育ててる間もせっせと図書館に通い子供の本と自分の本を選ぶ。今度は絵本に夢中になり、買い集めるようになっていった。

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どうせ私が読まなきゃいけないなら、絵本も読んでいて楽しいものがいい。
声に出して楽しい文章と、そうじゃない文章ってあるのよね。

「ひ〜ら〜い〜た〜ひ〜らいた~♪ な〜んのは〜ながひ〜らいた〜♪」と懐かしのわらべ歌を歌いながら読んだり、
 -『ひらいた ひらいた(わかやまけん)』

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卵が関西弁を喋るなんて面白いでしょ、これが子供たちに大ウケで。
 -『あれこれたまご(とりやまみゆき)』

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4人のお子さんの分だけ、思い出の絵本と情景があります。

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子供たちが大きくなってからは、今度は児童書とヤングアダルトの本が、一番身近な他人の子供たちの心を理解するための架け橋になったと教えてくれました。

男の子って本当に宇宙人で、どうしてそんな行動をするのか分からなくって、となつみさんは笑いながら言う。でもこの本を読んでみたら、なるほど、なんのためでもなく楽しいからやってるんだ!笑 と長男の行動の理由が理解できた気がしたの。
 -『ぼくらの七日間戦争(宗田理)』

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女の子は女の子で、自分の経験があるから娘の気持ちをわかった気になりそうになるから厄介なのよね。その時を生きてる子にしかわからない瑞々しい葛藤や感情って、きっと忘れてちゃってるはずだから。

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子育てしていると毎日が一生懸命で手一杯で、気分転換ができるものがない。そうすると段々と気持ちが籠もってしまう。そんな時に本は、知らない世界やわからなかった誰かの気持ちとつながる扉になった。図書館で自分のための本を探すあの時間が大事だった。

pagewoodを、忙しいお母さんたちにとっても一息つける場所にしたい、となつみさんは言う。

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本は知らない世界に繋がる扉

なつみさんの夢は、BOOK BUSを作っていろんな町をまわること。
いろんな町で移動式本屋さんを開いたら、いろんな人に出会えるし、きっと楽しい。本屋さんが近くに無い田舎の町に、BOOK BUSで本との出逢いを作りに行く旅。

あと、壁を一面本棚にしてみたいの。本に囲まれる居場所って素敵じゃない?と付け加える。なつみさんはやっぱり本が大好きなんだなあと暖かい気持ちになりました。

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最後になつみさんに、私たち二人にも選書してもらいました。

来週から久しぶりに旅に出る私には、『家守綺譚(梨木香歩著)』『猫を抱いて象と泳ぐ(小川洋子著)』。長い移動中に小説に浸れるように世界観に没頭できる小説を2冊。

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本ともっと仲良くなりたいです、とえりちゃんには『夕暮れのマグノリア(安東みさえ著)』。可愛い装丁で机に置いておくと気分が上がるでしょ、となつみさん。

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最近はネットで簡単に欲しい本がすぐ届きます。すぐに手に入ること、口コミで事前に評判が見れる時代は便利なときもありますが、偶然本屋で手に取った本がたまたま自分にグッとくるものだった時の、ちょっとうるうるきちゃう感じには変え難い。
偶然の、自分の世界のすこし外側の本と出逢いの積み重ねで、人生が広がってゆくことでしょう。

東川町のブックカフェpagewoodのなつみさんは、そんな気持ちを思い出してくれる存在です。

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◎ぐるりとのあとがき◎

取材中、お子さんが小さい頃に読み聞かせをしていた本を、なつみさんが読んでくれたシーンがありました。昔を懐かしみながら本を読み進める姿をみて、私はあまり本は読まないけれど、それは音楽を聴いたり、匂いを嗅いだりして記憶が呼び起こされるのと似た感覚なのだろうなと思いました。本が人生を繋いで、その本を読むことでタイムスリップできる。なんだかとっても素敵です。
主人公が書店員やコンビニ店員というような、物語を通してそのお仕事も知ることができる本がジャンルとしてまとまって並べられていたのも、印象的でした。まだ見ぬ広い世界に、子どもたちは本を通じて出会うことができる。知らない何かに出会える、あたらしい発見がある。それはまさに、本の旅。もしも今、まだ小さな世界しか知らなかった高校生の私に会いに行けるなら、本が世界を広げてくれるよって一番に教えてあげたいなあ。人生のそばにいつも本があったなつみさんに、本は旅に連れ出してくれる存在だと、教えていただきました。
(清水エリ / 撮る人)
pagewoodでなつみさんに本を紹介してもらう時間がとても好きなんです。人と人との会話の間に本があることで、ふんわり優しいクッション材が挟まれるような感覚があります。誰かから紹介される本にはその人が大事にしたいことが詰まってる。紹介してもらう本から人となりが染みて伝わってくる。でも良いと感じるかは人それぞれ。あのシーンがいいんだよね、と感想共有する時間は私とあなたと本の物語が重なっていくような感覚。そんな優しい時間を作りだすなつみさんのことを知れて、一層好きになる機会でした。大人になったら「行きつけのバー」なるものが欲しいと思っていたけど「行きつけのブックカフェ」が東川にできました。カクテルの代わりに本を間に挟んでおしゃべりをしに、また行きます。
(安井早紀 / 書く人)

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