聖と俗が交わるところ - モダン・ゴスペルとモダン・ソウル
クリスチャンでもなければ、文化的にアメリカにルーツを持つわけでもない私ですが、ソウル・ミュージックを愛好していれば、ゴスペルが持つ音楽的意義には敬意を払わずにはいられません。
その歴史や文化を正しく語れるほどの知識があるわけではなし、なにより自分が好きになった楽曲を紹介したいというだけのセルフィッシュな記事ですので、御託はほどほどにしますが、とは言えひとの耳に届くところで「オー・マイ・ゴッド」とか発声しちゃうTVタレントとか見ると、ほんのり暗い気分になりますよ。
壮絶な歴史を背景に自然発生的に生まれたゴスペルと、商業主義の要請もあって発展した大衆音楽としてのリズム・アンド・ブルーズ、「聖と俗」なんてありがちな二元論で表現できるほど単純な関係性ではないことは承知ですが、両者を行き来したミュージシャンが、「歌うことすなわち信仰」とするオーセンティックなゴスペル界から世俗での活動を批判された時期があることは事実です。
——Sam Cookeさんしかり、Aretha Franklinさんしかり。
やはりそこには確たる一線があった(ある)のでしょうか。
しかし歴史の中で互いに影響を与え合ってきたことは周知のとおり、時代が進むにつれ、新しい世代においてはそれぞれに新しい局面を見せてくれます。
信仰心に欠ける私であってもその成果を享受できることに感謝しています。
♪ "Love Theory" by Kirk Franklin (2019)
コンテンポラリー・ゴスペルのスーパー・ヒーロー。
自身のクワイアを率いて、R&B/ヒップ・ホップとも融合した楽曲で広い世代に熱烈に支持されています。
不幸な幼少期体験や数々のスキャンダルも話題ですが、そのカリズマ性はさすが。
♪ "Lord What Is Happening To The World?" by The Imperial Wonders (2005)
60年代からメンバーを入れ替えながらオハイオ州クリーブランドで活動しているというヴォーカル・グループ。
ちょっとマイナーな香りがまた良くて、華やかなシンセのメロディーもパイプ・オルガンを思わせて印象的。
♪ "The World Is Waiting for a Change" by New York Community Choir (1978)
いきなり高揚感あふれるフックからはじまる、NYCCの代表曲。
こちらも60年代後半から活動を続ける名門グループの一つです。
曲の後半、ハンド・クラップ入りのドラム・ブレイクから一気に駆け上がるところは鳥肌モノです。
♪ "Heavenly Places" by Soul Liberation (1982)
ブロンクスのヤクザ者だったTom Skinnerさんが悔いあらためて福音派説教師となり、布教のために組んだのがこのバンド。
この録音、ヴォーカルの処理とか気になるところはありますが、まさに天に舞うようなメロウさは素晴らしいです。
♪ "I Really Love" by Norman Hutchins (2006)
30年以上のキャリアを持つデンヴァー生まれのゴスペル・シンガー/ソング・ライター。
そのパワフルな歌声やコール・アンド・レスポンスでのシャウトなど、Sam Cookeさんを彷彿とさせるほどにモダン・ソウル。
♪ "Love and Hate in a Different Time" by Gabriels (2021)
2016年、L.A.で結成されたこのグループの最大の特徴が、ヴォーカルのJacob Luskさんであることは間違いないでしょう。
教会での音楽指導者として活動するとともに、かの「アメリカン・アイドル」で注目された彼の声は唯一無二です。
♪ "It's Gonna Be Alright (Remix)" by Titus Showers (2020)
ヴェテラン・ゴスペル・シンガーのヒット曲を、若い世代が原曲を損なうことなくリミックス。
タイトルの通り、苦難にある人びとを暖かく励ますソウルフルな歌声が胸に迫ります。
♪ "I'm Going All The Way" by Sounds Of Blackness (1994)
私の好きなグラウンド・ビートをほのかに取り入れてくれてステキ。
リードを取るAnn Nesbyさんも、ゴスペル/R&Bに素晴らしい作品を残すシンガーです。
自分たちではゴスペル・グループと意識していないそうですが、そのスピリットは確実に楽曲に表れています。
♪ "Mad Love" by Infinity Song (2021)
Boyd家の兄弟姉妹がデトロイトから移り住んだNYで結成したグループ。
ゴスペルを基盤として、トラディショナルなソウル、フォーク・ソングなどをアップデイトしています。
ちなみに昨年出たニュー・アルバム、往年のグリニッジ・ヴィレッジ系またはローレル・キャニオン系のフォーク・ソングがお好きな方にはたまらないと思います。いち押し。