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真摯な取材と独自のマネタイズ方法でマイノリティの声を届ける動画メディア「.face」を見てみよう

韓国フェミニズムに代表されるように、インディペンデントな出版活動や発信が盛んな印象のある韓国。ZINEやリトルプレスは現在も注目を集めているが、WEBメディアにおいてはどうだろうか?

普段通りTwitterを眺めていると、あるYouTubeチャンネルのPR動画が流れてきた。そこに込められた真摯なメッセージと、コンテンツとしての完成度の高さに、新たなメディア像を見た。

「.face」というその動画メディアについて、先述のPR動画の日本語字幕の作成も手がけたそんゆか氏に寄稿を依頼。.faceが挑戦している試みや日本語字幕のついたおすすめの動画について解説してもらった。(編集部)

Text and translate:そんゆか
Photo:Andrew Leu on Unsplash

オンラインクィアパレードで話題を呼んだ動画メディア「.face」

毎年6月はプライド月間。本来であれば世界各地で華々しくクィアパレードが行われるところですが、今年は新型コロナ対策により軒並み中止。そんな6月のある日、Instagram上にオンライン・クィアパレードなるものが出現しました。

特設サイト上でアバターを作り、指定のハッシュタグと共にInstagramに投稿、ハッシュタグを検索すると上記の動画のように各々のアバターが繋がり、まるで本当にパレードをしているように見えるという企画でした。

アバターを作成するだけに留まらず、「みんながお腹空くと思って店出しときました!」とキッチンカーの写真を投稿する人、飼い猫の写真を参加させる人、パートナーと二人寄り添ったアバターを投稿する人と、思い思いの楽しみ方があり遂には日本のユーザーにも届きました。

参加者は、13日間(2020年6月23日〜7月5日)で延べ86,225人(アバター作成時登録Eメール数基準)。

期間中、韓国各地のクィアパレード、クィア団体、クィアコミュニティ、LGBTSやジェンダー関連メディア・企業もイベントパートナーとして続々と名乗りを上げ、タイアップアイテム盛りだくさんのにぎやかなパレードとなりました。

これを主催したのが、韓国の動画メディア、.face(ドットフェイス)。.faceは“ミレニアル世代によるミレニアル世代のためのメディア”として2016年に活動を開始したスタートアップで、マイノリティの声を届け社会の常識をアップデートすることをモットーに、YouTubeを中心に活動しています。

(編集部追記)
.faceによるオンラインクィアパレードを振り返った動画が公開されたので追記しました。また、参加者の数字も動画内で発表された最新の情報に修正しています。(2020.07.14)

.faceが模索し続ける新たなメディア像

「この時代に必要な、新しい常識について話します」

2016年、.faceメディアをスタートしました。私達は、今の社会で通じる「基本的な常識」がアップデートされる必要があるという問題意識を持って出発しました。しばしば「大げさな事」だと扱われる私達の声が、この社会を変えるために必要だと考えました。

「変化が必要な地点に、.faceがいます。」

.faceは変化が必要な地点を探しに行きます。そこでまだまともに声を出せずにいるマイノリティの話を伝えます。

私達は、マイノリティ=単なる弱者ではなく、この社会がどう変わっていくべきか率先して声を上げる人だと考えます。私達は新しい常識が必要な地点を示す者達です。私達は、彼らの声を大きくする役割を担います。

私達は単発的に刺激的に人々の関心を引く話はしません。問題の表面だけを見せるのではなく、どのような変化が必要なのか具体的に映します。私達はもっと多くの人々と共に、変化が必要な地点について話せるようにし、その話が現実の変化に結びつくようにします。

このような過程を通して.faceはあなたの先入観を壊し勇気を与え、時に全く理解できないと思っていた他者の理解を可能にする、驚くような経験を作り出します。

以上は.face公式サイトの会社紹介を一部抜粋し、翻訳したものです。

.faceはこのような姿勢を貫くため、様々な収益モデルを試行しています。

その1つが.faceピープルというメンバーシップ制度。支援金額は1ヶ月11,000ウォン(990円)から自由に設定でき、加入すると3ヶ月に1度の.faceレターを発送、2週間に1度の取材過程をまとめたPDノートや動画の主要ポイントをまとめたビデオブリーフィングの送信、不定期に開催されるメンバー限定ライブ放送、オンラインコミュニティの利用権などの特典があり、加入数は現在1,117人となっています。

また、妊娠中絶に関するドキュメントシリーズ「洗濯所の女たち」に対しクラウドファンディングを実施し、1,865人から5,000万ウォン(約450万円)の支援と関心を得て、シリーズ4編合計で135万再生という成果を収めました。

.face代表のチョ・ソダム氏は、.faceがこのように様々な方法の収益モデルを試行するのは、広告主の意向に左右され、コストパフォーマンスを意識せざるを得ない、従来のメディアの問題点から脱却するためであると言います。

.faceはこういった姿勢が認められ2019年3月、「グーグルニュースイニシアティブ(GNI)アジア・太平洋イノベーションチャレンジ」プログラムに選定されました。これはメディア収益モデルの革新を支援するプログラムで、韓国では他に毎日経済新聞、日本からは朝日新聞が選定されています。設立数年の小さなメディアがこのプログラムに選ばれるのは大きな快挙だということがわかります。

最初にチェックしておきたい日本語字幕付きの動画3選

.faceは今まで、性的少数者や障害者、医療従事者、移民、性犯罪、売買春、リプロダクトヘルスライツ、性教育、性差別、環境問題など、社会の中で私達が向き合うべきテーマについて伝えてきました。

.faceの動画は韓国語ですが、YouTubeの機能を利用して日本語字幕が付いているものもあります。

その中から、3編の動画を紹介します。

障害者の妹と私、施設を出ると決心した|悩める2番目の姉

1つ目は、18年ぶりに同居することにした重度発達障害の妹チャン・ヘジョンさんと姉のチャン・ヘヨンさんの話。

妹のヘジョンさんは長い間、人里離れた障害者施設で生活していましたが、姉のヘヨンさんは妹にも自分と同じように、自分らしく生きて欲しいという気持ちで同居を決心しました。ヘヨンさんは、障害を持つ人も施設の外で暮らして行ける世界を作りたいと言います。

3年前の動画公開当時につけられた「国会議員になりそう」というコメントに、最近の日付で「聖地巡礼に来ました」という返信が連なっていますが、これは今年の5月の国会議員選挙で、実際にヘヨンさんが立候補し当選したため、これにあやかろうというものです。

ヘヨンさんは6月、国会での包括的差別禁止法の発議人代表となり、当選早々大活躍中です。差別禁止法はこれまで発議される度に何度も阻まれてきた法案ですが、今度こそ制定されてほしいと思います。

60代レズビアンが語る明洞の話

明洞といえばソウル旅行者ならビギナーもリピーターも皆が訪れる定番の観光地。その明洞に70年代に存在した、レズビアンのための街とそこに集った人々の話を、ユン・キム・ミョンウ氏が聞かせてくれます。

当時、明洞は芸術家が集まるソウル随一の繁華街でした。動画の中で出てきた「パジ氏」はボーイッシュなレズビアン、「チマ氏」はフェミニンなレズビアンのことです(※韓国語でパジはズボン、チマはスカートのこと)。

レズビアンという呼称がまだ一般的でなかった時代にも、当然彼女らは存在した訳です。特にパジ氏にとって明洞は紳士服も婦人服も扱うオーダーメード店があり、体に合った服が手に入る貴重な場所だったとか。

明洞で青春を過ごした後、レズビアンのためのバー「レスボス」を長年経営していたミョンウ氏は、レズビアンにとって自分のための空間があることがとても重要なことだと語ります。

その後、ミョンウ氏は後輩たちのために空間を復活させました。ミョンウ氏の店「レスボス」はソウル梨泰院で営業中です。

焼肉、韓国でも日本でもない在日コリアンの食べ物|ソウルフードEp.01

移民と共に移動し根付いたソウルフードについてのシリーズ第1弾。在日コリアンと共に歩んできた「焼肉」についてのドキュメンタリーです。

在日コリアンが苦しい生活の中で、生きる術として始めた焼肉店。それが日本の食文化として根付くまでの時間と、それぞれの店主の人生。この動画を見ると、在日コリアンをよく知らない人も、在日コリアンがどんな人達なのか少し掴めるかもしれません。

一口に在日コリアンといっても様々で、韓国語の習得度も人によってバラバラだったり、「焼肉 宝」の大将と「牛一」のシン・ユンヒョンさんのように、同じ3世でも親子ほどの年の差があったりします。個人的には「焼肉 宝」の大将の、関西弁の影響が感じられる韓国語に親しみを感じました。料理も言葉も海を越えてその土地の影響を受けながら、ずっと引き継がれてきたんですね。

このソウルフードシリーズは、他3編も日本語字幕がついており、移動する人と流転する料理について、興味深い取材を行っているのでおすすめです。

『「私が声を上げても何が変わるのだろうか」と思うのなら』

最後にもう1つ動画を紹介します。.faceのPR動画です。

私は、差別の言葉や無理解に心が折れそうな時に、この動画を目にしました。私や、動画の中の人々と同じ境遇にある人に希望を持ち続けてほしくて、この動画に日本語訳を付けました。

声を上げるのはつらいことです。声を上げ続けるのはもっとつらいことです。もし今同じように感じているなら、この動画を見てください。

.faceが取材してきた人々の声があなたを癒やし奮い立たせてくれるはずです。



気に入った方はサポートしていただけると嬉しいです。頂いたサポートは次回原稿依頼時のギャランティーなどに使用させていただきます。