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地方自治体のことを世界標準の経営理論から考えてみるーSPC理論

分厚いことで有名な入山先生の世界標準の経営理論

せっかく読んだので拙いながらも思考実験に使ってみよう企画です。

第1章SCP理論の概要

第1回は第1章のSCP理論です。

SCP理論はもともと経済学の分野で発展した理論で、それを経営学において昇華したのがハーバード大学のマイケル・ポーターです。

SCP理論のSCPとはStructureーCunductーPerformanceの略で構造・遂行・業績という意味ですね。

これは儲かる業界と儲からない業界を分別するための理論です。
キーになるのは完全競争です。
完全競争とは以下の条件を満たすものです。

条件1: 市場に無数の小さな企業がいて、どの市場も市場価格に影響を与えられない
条件2:その市場に他企業が新しく参入する際のコストがない&撤退のコストもない
条件3:提供する製品・サービスが差別化されていない
条件4:製品・サービスを作るための経営資源が他企業にコストなく移動する
条件5:企業の製品・サービスの完全な情報を顧客や同業者が持っている

完全競争は「全く儲からない市場」のモデル。

誰でもノーコストで参入できて、商品が同じで、
ノウハウは全部他社も持っていて、
価格コントロールが誰もできない。
儲からなそうだなーと誰もが思う市場です。

完全競争が実現した場合、(商品サービスは消費者自身がやっても同じなので)利潤が出ないところで需要と供給が釣り合うため、企業は全く儲かりません。

逆にいうと「完全競争からからできるだけ引き離すこと」が収益を上げる鍵になります。

そのための代表的な方法は以下のようなものです。

条件1の逆条件=寡占(少数企業で価格と生産をコントロールする)
条件2の逆条件=規模の経済(生産量を多くすることで生産コストを下げ、利益を確保する)
条件3の逆条件=差別化戦略(技術、機能、デザイン、ブランドなどで他企業と差別化する。同じ産業内でも別のグループと認識されるという意味で条件1の逆条件でもある)

SCP理論の典型例

SCP理論を活用している典型例としてはSNSが挙げられる。

SNSの利用拡大に向けた構造は

他と違った機能・ブランドで利用数を増やす(条件3の逆条件である差別化)

一定数以上の利用者が集まると「利用者が多い」という理由で利用者が増える(条件2の逆条件である規模の経済)

似たようなサービスが減っていき利用者がより集中する(条件1の逆条件である寡占)

SNSのようなプラットフォーマーはSCP理論にとても整合していることがわかります。

地方自治体で活用できるか

ここまで見てきたSCP理論。とても明確な理論なのですが地方自治体で活用しようと思うとなかなか難しいと思いました。

例として人口減少への対策として多くの自治体が行なっている移住推進施策に適用して考えてみます。

条件1: 市場に無数の小さな企業がいて、どの企業も市場価格に影響を与えられない
→▲どの自治体に移住する場合も(移住自体は)無料。ただし補助金行政の可能性はある。

条件2:その市場に他企業が新しく参入する際のコストがない&撤退のコストもない
→✖️転居の自由の原則からすでに参加可能な全てが参入済み。

条件3:提供する製品・サービスが差別化されていない
→▲移住そのものについては民間サービスだが、住民サービスの提供についての差別化の余地はある。

条件4:製品・サービスを作るための経営資源が他企業にコストなく移動する
→✖️自治体の情報は原則として公開されている。

条件5:企業の製品・サービスの完全な情報を顧客や同業者が持っている
→✖️情報公開の原則から情報の秘匿は難しい。

自治体は原則として情報公開を行う義務がありますし、そもそも移住にかかるサービスそのものは民間企業が提供するため価格競争自体が存在しないので、自治体から見た場合完全競争にかなり近い形になっています。

そもそも移住そのもの(引越し費用とは別に移住そのものに経費がかかるか)は無料のため、価格競争という概念がないのも噛み合わせるのが難しい部分です。

可能性がありそうなのは、
条件3の逆条件=差別化戦略として他の地域に移住するのと異なったメリットを提示し、別の市場グループを作ること。

あとは移住にかかる補助金を出して、元々無料である移住を金銭的メリットのあるものにすることくらいでしょうか。実際に移住に対して補助金を出している自治体は存在します。

移住の差別化戦略

もっとも可能性がありそうな差別化戦略について移住を例に考えてみます。

差別化戦略は「技術、機能、デザイン、ブランドなどで他と差別化する」ことで、他と異なるグループを自社が形成し顧客に選択されるための施策です。
なんらかの形で他と違うメリットを示すことが重要で、メリットには金銭的なものや特別感などの心情でのメリットなど様々なものがあります。

では移住者のメリットとはなんでしょうか?
それを考えるために国立人口問題研究所の調査を見てみました。
それによると2016年時点での転居の理由は以下のようなものでした。

入学・進学 5.3%
職業上の理由 12.7%
住宅を主とする理由 35.4%
親やことの同居・近居 7.0%
家族の移動に伴って 10.8%
結婚・離婚 12.0%
その他 13.8%
不詳 3.1%

ここから伺えるのは、学業・仕事・家族に関連した理由が約半数を占めるということです。

実際自分を振り返ってみても、親の仕事・自身の学業や就職・結婚・介護などが転居の機械であって、あとは同じ生活圏において賃貸住宅を変えたような経験しかありません。
この中では結婚が狙い目かもしれません。他の理由は転居の目的地に個人の思いなどが入る余地があまりありません。結婚の場合は仕事は当然関連しますが、親元を離れるということを考えると個人の思いが影響する余地がありそうです。

住居は生活に密着しています。仕事や家族の状況に大きく影響するような生活圏を変える転居は、なんとなくは発生しないと考える方が良さそうです。

逆に生活圏を大きく変えない転居は、住宅を理由とする理由が35.4%と大きな割合であることからも、あまり大きな理由でなくとも発生しそうです。

生活圏という発想では東京圏のベッドタウンはまさにそういう状態ではないでしょうか?
東京圏では公共交通機関が発達していることもあり、都内に関わらず通勤が可能で、仕事も多くあります。
そのため特に独身であればあまり深く考えず転居が可能です。定住という視点ではデメリットでもあります。

以上を踏まえて傑出した施策だなと思うのは、流山市の子育て支援施策です。
流山市は「母になるなら流山」というブランディング施策をかなり強力に行なっています。


さらに駅から市内の保育所にバスで送迎してくれる送迎保育ステーションという施策を行なっています。

東京のベッドタウンは東京までの通勤距離と家賃ですでに差別化されており、コントロールできる余地はあまり多くありません。
「母になるなら流山」というブランディングを大きく行うとともに子育て家庭の大きな問題である保育園送迎について施策を行うことで、比較的流動的である東京圏の子育て世帯の移住を獲得することに成功しています。

さすが、全国でも珍しいマーケティング課を設置している自治体だと思います。

まとめ

・SCP理論は、以下の完全競争の条件からできるだけ離れた状況を作り出す施策
条件1: 市場に無数の小さな企業がいて、どの市場も市場価格に影響を与えられない
条件2:その市場に他企業が新しく参入する際のコストがない&撤退のコストもない
条件3:提供する製品・サービスが差別化されていない
条件4:製品・サービスを作るための経営資源が他企業にコストなく移動する
条件5:企業の製品・サービスの完全な情報を顧客や同業者が持っている

・自治体への適用は難しい部分も多いが、特に条件3の逆条件である差別化戦略は活用の余地がある。

自治体の活用は難しい理論でした。

一方でこういう理論を使って分析してみようと思考実験すると、別の視点から切り取れることがメリットだと感じました。

地域のブランディングは様々な自治体が行なっていますが、どういう層にアプローチしてそれはどのくらいの人がいて、その人はこういう理由で行動していて、、、というような発想を持つことが重要かもしれません。

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