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『日本の森林に対するイメージそれってほんと?~災害と森林の関係を森林総研・大丸先生に聞いてみた~』後半

■『日本の森林に対するイメージそれってほんと?~災害と森林の関係を森林総研・大丸先生に聞いてみた~』前半

みなさんは普段、山に登ることはありますか?里山に住んでいる方や、幼いころ山の中で育ったという方は「森林」というものが身近に感じるかもしれません。しかし、東京のような都会で生活する方にとって森林は少し遠い存在かと思います。

私は今東京に暮らし、月に2週間は和歌山の山の中で仕事をしていますが、東京にいると自然に触れる機会が少ないなと思います。ただ、実はよく考えてみると、生活の中に自然があふれていることに気が付きます。森林そのものに入らないだけで、森林が間接的に生活に影響を与えているのです。そういった気づきを皆さんにもお届けしたいと思い、一見森林には無関係のように感じる様々な分野の専門家にインタビューし、森林の魅力や生活との関係などを伺っていきます。


今回は記念すべき、第一回の後半です。近年増加する災害と森林や林業との関係について、森林総合研究所の大丸先生にお話しを伺いました。

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インタビュー:森林総合研究所 大丸先生プロフィール
1961年石川県内灘町生まれ。実は山も川もない砂丘の町で育ちました。大学では地質や地形を学びましたが、人間と自然の関係の方に興味があったので災害の研究に進みました。家では妻と娘と最近飼い始めた黒柴と暮らしています。最近はCS立体図の普及など、現場の人が地形や地質の情報を身近に利用できる技術の開発をメインの仕事にしています。
インタビュアー:GREEN FORESTERS note編集部 奥川

土砂災害リスクを下げるために必要なことは何か?

奥:土砂災害という言葉がでてきたので、少し深掘ってお伺いしたいのですが、「土砂災害」で重視されるものは、人間が住んでいるところは崩れてはいけない、人がいるところはくずれてはいけないということですか?

大:はい、人命が最優先なので、そこは崩れちゃだめですね。長期的にみたときに、土地利用をするうえで、人間はそもそも安全な場所に住んだほうがいいと思います。何度も災害が起きているところは居住制限をしたり、保安林にしたほうがより安全ではないでしょうか

今、グランドデザインをされているのが土木関係者です。土砂災害を林業だけに絞らずに考えると、長期的にみれば災害の起きやすいエリアには人を住まわせないといったグランドデザインが重要だという意見も存在します。つまり時間軸をどうとらえるかで対策も変わってくるということです。

奥:危険なところには住まない、保安林にしていくということも大切ということですね。
一般の方から、「自然災害が増えているイメージがあるが、今まで森林が関わっていると意識したことがなかった。実際、森林と災害は関係しているのか。」というような質問もきています。ここはいかがでしょうか。

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大:森林が土砂崩れを防ぐことができるという研究は実際存在するので、本当だと思いますが、その効果がどこまであるのかをはかることは難しいです。地すべりが起こると、それ以上崩れが広がらないように一般的には工事をするのですが、その工事というのは通常「100年に1回くらいの雨には耐えられるような施設(工事)にしよう」のような基準をもとに行われます。生活者が安全に暮らせるように明確に防ぐことのできる範囲や期間を設定するのです。

しかし、森林の場合はそれを図ることが難しいです。なぜなら、木や森は生き物だからです。木の根っこが山の斜面を抑えることはできますが、実際どの程度の雨まで防げるのか等が現状では不明確です。コンクリートの構造物のように効果を計ることはできません。

治山事業が目指している森林による防災対策は、流域全体で災害を防ぐというような考えを大事にしています。土木工事のように一つの施設(ダムなど)によってその下にある人家を確実に防ぐという考えではありません。崩れるかもしれないが、下流にある町や人家に災害になるほどの土砂を流さないというような考えをもっています。

土木が「オペや注射的な治療」だとすると、治山は「体質改善の薬」のようなものだとお伝えすればわかりやすいでしょうか。
国土全体を健康にして災害を防ぐ。災害はゼロにはできないから、(リスクを減らして)穏やかにすることが大切です。

奥:体質改善の薬という表現、とても分かりやすいですね。今の話をお伺いして、疑問に思ったのですが、土砂災害をゼロにするにはどうするべきだとお考えですか?土木工事だけで防げるのではないか?という意見を耳にすることもあるのですが。

大:森林保全・土地利用・危ないところに近づかない等の対策である程度防ぐことはできます。
日本という高温多湿のなかで、山林は私たちの生活に密接に関わっています。山の近くに住んでいない人であっても、紅葉をみたり、キャンプをしたりと山に関わる機会は多く、こういうすばらしい環境に恵まれた国土の上で私たちは生きています。外国からの観光客も、日本の自然に感動しています。

危ないところに近づかないことも対策の一つではありますが、私たちがもつ文化を上手く活かしながら生活するためには、山林に人を住まわせない、近寄らせないという極端な対策はもったいないと思います。もちろん価値観ですから、いろいろな意見があると思いますけれど。

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森林による災害対策に関する課題とは?

奥:確かに、先日栃木県の日光に行ったときに、土砂災害危険区域を示す看板を目にしました。土砂災害が危険だからといって、日光のきれいな紅葉が見えなくなるのはもったいないと思います。大丸先生をはじめ、研究者が森林による土砂災害対策についてボトルネックだと思っていること、今一番研究されていることは何ですか?

大:森林による防災で、一番研究者が関心をもっているのは根っこの問題です。根っこには補強材のような役割があるからです。現在、根っこがあるかないかでの土砂災害をくいとめる強度を調べる研究がされていますが、根っこも生き物なので、研究と現場は違います。それを見極めた上で再評価していく必要があると思っています。

3.11(東日本大震災)のとき、津波で海岸林が流されたということがありました。根っこが浅い立木は流され、街の被害を大きくしました。地下水があり、根っこを深く張れなかった立木が多かったからです。そのことを踏まえて、今では地下水が届かないように盛り土をしてから木を植えるなどして、東北では津波で海岸林の立ち木が流れないようにしています。このように条件によって根っこの生え方が変わるため、工学的ではなく、自然であることを理解して再び樹木に対する評価を見直す必要があるのではないでしょうか。

この背景には、研究者が平地(苗畑)で今まで樹木(根っこ)の評価についての研究をしていたということがあります。しかし、実際は現場ではどうなるのか、地域や環境が変わればどうなるかを考慮することが重要です。研究者の中には作業道を実際につくっている現場を利用して研究されている方もいます。作業道の切土面から出ている根っこをみて評価するということをしています。また現場で山をみている方(林業家等)からも実際に話を聞いています。このように、林業の現場の人たちと交流しながら、インタラクティブに研究していくことが今後大切だと思います。

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奥:森林総研(大丸先生)は土砂災害に対して行っている防災対策はありますか?

大:私は地形や地質の研究をしていたので、研究者として、林業を行う上でどういう地域の、どの山が崩れやすいのかを明確に言えるようにしたいと研究をはじめました。現場の意見をきいて、CS立体図※1を使えるようにし、災害の安全な場所と危険な場所を明確化していきたいと思っています。
※1(視覚的・感覚的に地形判読を可能にした地形表現図。この立体図を活用することで災害に貧弱な地形に立地する森林を抽出し、科学的な根拠に基づく経営計画の立案が可能になった。※G空間情報センターHPより引用)

CS立体図は人間でいうところのレントゲンのようなものです。CS立体図を見て、計画を科学的に考えていくことができればより意味のある山づくりができるのではと思います。CS立体図はあくまで道具なので、これを使いこなすということが大切ですよね。

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私たちが今できること

奥:なるほど。では、一般の人が森林や防災に対して出来ることはあるのでしょうか。

大:森林にあまり関わったことのない方には、まず、日本の山に関心をもってもらうのが大切だと思っています。日本の森林が崩れやすいということを知ってもらうことはもちろんですが、山菜や花など多様性があるということも知っていただきたい。そこに興味を持ってもらうことが自然の保護、防災、魅力を伝えるということに繋がると思っています。最近思っているのは、「山をまるごと親しむ」という機会が学校教育や地域の中であればいいなということです。幼いころから身近な自然を知っていくことが大事ではないかと思います。

奥:どう関心をもってもらうのかを考えることが大切ということなんですね。グリーンフォレスターズでもnoteを通して、みなさんに少しでも関心を持ってもらう発信ができればと思います。


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