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食べつくすまで止まらない!山の困ったさん

ニュースでたまに聞くクマ

最近たまに、クマが人里におりてきて食糧をあさったり、人を襲ったりというのをニュースで聞きます。
人が襲われたと聞くと、食べられる!という危機感を持つかもしれませんが、クマは食べ物の9割以上が植物です(下の図[1]を見てみてください!)。あんなに大きい動物がほとんど植物だけで出来ているなんて…

キャプチャ

[1]

冬眠前にしっかり食べておきたいクマは森でドングリが見つかればハッピーですが、不作の年は食糧を求めて森を出て人里に近づいてしまうのです。かつてはクマと人間の住処の間には里山があり、棲み分けの緩衝地帯として機能していましたが、過疎化や高齢化で里山や山林が手入れできにくくなっています。クマも人間に会いたいわけではないのです(必ずしもそうとは言えない場合もありますが)。

射殺に関しては賛否両論ありますが、やはり危険が身近にある人とない人では意見の分かれるところです。


ニュースでは話題にならないシカ

クマ出没をよくニュースで聞くのは人間に直接的に被害を与える危険があるからですが、命に直接は関わらない、報道されにくい部分で大きな被害を生み出している動物がいます(もちろん山村部・林業従事者の方には生活に甚大な被害が出ていますが)。

それがシカです!

こちらのグラフ[2]をご覧ください。日本の民有林、国有林での動物による被害を種別に表したものです。

動物別森林被害

[2]

植樹した苗木を食べられたり、成木の樹皮を剥皮されたり、下層植生(背の低い低木や草のこと)を食べつくしてしまったりして、森林が衰退したり造林・森林整備に支障を及ぼすことを森林被害といいます。令和元年度における森林被害面積が全国で5000ha(東京ディズニーランド約100個分)、その被害の7割がシカによるものということです。

スギ人工林におけるシカの剥皮被害

[3]

シカ食害による下層植生の消失

[4]

皮を剥がれると材として出せなかったり幹が腐って風で倒れやすくなったりなど、人工林、天然林に関わらず森林が荒廃してしまいます。
また下層植生が食べつくされることで、次世代の樹木の生長が妨げられたり生物多様性が低下するといった直接的な影響の他に、森林の植生が著しく低下することで土壌保全機能の低下することが懸念されています。


昔からシカはいたのに、なぜ今?

古代から日本では人間とシカは密接な関係にあり、シカを食肉や毛皮として重宝する一方、農作物被害も問題でした。その後江戸時代から明治時代にかけても盛んに狩猟を行い、農作物に対する獣害対策もされていました。しかし明治時代後半になると大型獣類が高値で取引されるようになり、狩猟獣の激減を危惧した政府が捕獲禁止令を出しました。

その後1990年代以降、造林木に対するシカ食害が注目・問題視されると、特定鳥獣保護管理計画によって捕獲対象として再び位置づけられましたが、現在のシカ頭数は過去最高ではないかと推測されています。

江戸時代から現在までのシカ推定生息数

[5]

シカが過去にない勢いで増加している原因として、
・オオカミ(シカの天敵)が絶滅してしまった
・狩猟を禁止していた間に猟師の数が減ってしまった
・燃料が化石燃料になり、森林資源を使わなくなったことで森林の植生が豊かになった(=餌資源の増加)
・地球温暖化で積雪が減少し、冬季の死亡率が低下している
ことが理由として挙げられます。
それに加えて、シカは一夫多妻制で1年に1頭のペースで出産するので、メスを捕獲しなければ減ることはないのです…

ほんとは好きなササや木の実を食べたいシカですが、増加したシカ同士で食糧競争が激化し、本来好まない樹皮や枯れ葉も食べざるを得なくなった結果、現在の森林被害が見られるようになりました。


森林被害をどうやって防ぐ?

根本的な解決には頭数を減らし管理していくことが不可欠ですが、被害拡大のスピードに対して人手が圧倒的に足りていないのが現状です。それでも黙って見過ごすわけにはいきません。このような策がとられています。

防護柵ネット

防護柵ネット

[3]
シカが侵入できないように柵を立てる方法。金網の場合もあります。倒木や積雪などでネットが倒れると侵入口が出来てしまうので、定期的な見回りや修理が必要です。

防護テープ

防護テープ

[6]
5年ほどで自然分解できるフィルムテープを巻き付けることで樹皮剥皮を防ぎます。しかし、きつく巻きすぎると幹の肥大に伴いテープが食い込んで損傷してしまうという欠点があります。金網を巻いて防護する方法もあります。

食害防止チューブ

食害防止チューブ

[2]
植えた苗を囲うことで食べられることを防ぎます。苗木を植えるような場所は風を直接受けるため、円筒は風を受け流す構造になっています。シカは1.5m以下が主に捕食範囲なので、ある程度の高さが必要です。

このように現場では様々な対処がなされていますが、お金がかかりすぎてしまうこと、管理が大変なことなど課題がたくさんあります。


そんなシカでも食べたくないものがある!

食糧競争で美味しくなさそうな樹皮や枯草も食べているシカですが、そんなシカでも食べるのを避ける植物があります。

が、ちょっと長くなってしまったのでこの話はまた今度にしましょう。


参考・引用
[1]日本の森とクマ - 環境省
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/kids/p6-11.pdf
[2]野生鳥獣による森林被害 - 林野庁(※1
https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/tyouju.html
[3]滋賀県HP - 狩猟で獣害から森を守る(※2)
https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/koho/kohoshi/18232.html
[4]三重県HP - 二ホンジカの過度の採食により自然植生への影響が危惧されています
https://www.pref.mie.lg.jp/ringi/hp/000203938.htm
[5]二ホンジカの食害による森林被害の実績と防除技術の開発
https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/seika/kenkyu/ikurin/documents/iku-24-1.pdf
[6]長野県HP - 森林整備(治山事業)のご紹介
https://www.pref.nagano.lg.jp/minaimchi/minaichi-rimmu/sinnrinnseibi/s-seibi.html



■氏名:清水美波
■所属:GFnote編集部ライター
■紹介文:神奈川県出身。幼少期からの外遊び好きが高じて、また一方で身近に遊べる自然環境が少なかったことが心残りで森林や植物に関わる仕事・生活をしたいと考えている。現在大学で森林情報の解析を専攻。西粟倉村の株式会社百森に就職予定。


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