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【思考が沼る文芸ZINE】 隠沼 - 『堕落』【PDF版有】

アートボード 1_3@2x

アートボード 1_1


時計の針が動くは刹那
動かぬときの方が長く

「やっと今日会えるや」
会えぬときに大切を育む

日が出れば月は消える
されど誰かの闇を覆う

恐ろしきは姿を見せず
潜み人を喰う力を持つ

山を登り谷を降りる
茶と緑の風景

火を消し世界を閉じる
青い鳥の休憩

一色の空を求め
一色の海を恐れる

 
初めに

 祖父母宅の庭に「山本周五郎生誕の家」と彫られた石碑がある。それは、松の下に四歳児くらいの背丈で立っている。私は幼い頃からその存在を認知していたが、特段に気にすることもなかった。なぜその石碑が置かれているのか、書かれていることは本当なのかと祖父に尋ねたのも、一昨年かそこらのことだ。しかし、ここ数年になって私の心のどこかに、石碑がその体重を乗せてくるようになった。
 それは、山本周五郎がどんな人物であるかを知った私の畏怖かもしれない。あるいは、同じ家に生まれながらも、私の名前はせいぜい墓石にしか刻まれないであろうという負い目かもしれない。
 年に何度か、苔に隠れた石碑の隣に真新しい石碑が並ぶ夢をみる。私の石碑であることを期待しながら刻まれた名前を確認するが、それを確認できた試しがない。
 ただ、どんな不思議なことが起きようとも「みどりのいぬ」と石碑に刻まれるのはゴメンだ。自分の孫のまたさらに孫がそんなものを見つけた日には恥ずかしくて、極楽なり地獄なりからトんで戻らざるを得ない。どうにかして、犬ッコロとしてではなく、人の名で作品を出せるようになりたい。
 さて、これから【堕落】という概念についての様々な「不知雑言」が展開される。ところが私は言語学者でもなければ哲学者でもない。アカデミックに仮説・実験・結果測定・考察を通して真理を定義するつもりもないし、現存する学説や考えを否定するつもりは少しもない。そういった意味で、不知、すなわちナニも知らないと言うことを前提においてポチポチしている。従って、文中に使われている用語、例えば「イデア」も本来の意味としてではなくミームとして使用している。
 また、多くの部分でトゲのある物言いや、ある考えや状態を批判する内容が書かれているだろう。しかしそれは私の手グセの様なもので、それを控えると読み物としてあまりに無機質になってしまう。特定の誰かを攻撃するつもりではなく”no offence”なのでどうか堪忍して欲しい。「不知雑言」とはそういう意味の造語である。
 このzineだかナンダカを読み進める前に、ゼヒ一度【堕落】という言葉について考えてみてほしい。自分はどういう状況でそれを使うか、またどんな状態を指すか、そしてそれは自分にとって何なのか。自分にとっての【堕落】の真の姿を描いてみてほしい。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
 そう、その通り。考えて答えが出るようなものでもないかもしれない。容易に堂々巡りに陥る。「人それぞれだろう」で片付けてしまいたくなる。まさに沼である。私は今から、その沼に皆さんを引きずり込もうと言うのだ。
 まずは第一部で堕落した人間の姿をお見せする。それは今あなたが想像するような姿ではないと思う。ただ、私が想像する堕落の姿は後の議論を理解するためには必要なのである。酒に溺れ、女に暴力をふるい、金にがめつい姿を想像していると、本質が見えなくなってしまう。何も、そういった姿を堕落ではないと否定はしない。ただ、エクストリームなケースは時に理解を濁らせるというだけだ。
 第二部はなんのことでもない。ちょっとしたお手紙だ。
 第三部は「時間」の捉え方についての紹介である。堕落というテーマに直接的な関わりは無いので、箸休めでもある。しかしここで紹介する価値観は私の考えに大きく影響しているので、大事な事でもある。
 第四部は短編小説だ。小説というよりも素人落語だ。オチはメタ的なオチと駄洒落落ちの二層になっている。個人的には気に入っているが、皆さんにとってもそうであると嬉しい。
 そして第五部、やっとの本論である。すなわち、私の考える「堕落」とは何か。それを解明する。他の部分は、第五部を補填するものだとも言える。論拠でないが、背景や具体例、メタファーではある。
 それぞれ単体でも独立するようにはしているが、お互いに強く繋がってもいる。読む順番は読者にお任せする。気になる所から読み進めてもらって構わない。わがままを言うなら、ぜひ二周読んでみて欲しい。一周目より楽しませることを保証する。
 どうぞ、私が【堕落】の沼にハマる様をお楽しみください。

みどりのいぬ


目次
        詩 |	一色の海を恐れる
        挨拶|	初めに
第一部	随筆|	七つの罪源と元徳
第ニ部	手紙|	兄様は妾の大好きな兄様でした。
第三部	随筆|	言葉から視点、あるいは視点から言葉、そして時へ
第四部	短編|	悪臭
第五部	随筆|	堕落論 2021
        挨拶|	終わりに


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拙作ではありますが、また書きたいと思います。 サポートしてくれたらヤる気を出すゲンキンな奴ですので、何卒。