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ヒーローじゃないぞ

近所によく吠える犬がいる。僕もずいぶん吠えられた。
いきなり吠えるから、ビクッとなり、このヤロってなる。
番犬としては優秀な犬ということにしておこう。
そんな優秀な番犬が、ある時から僕に吠えなくなった。

近所に人間を警戒しない野良猫がいる。懐いているわけではない。
太々しい顔をしたその猫は、朝方は道路の真ん中で寝てたりする。
僕はたまに見かけると声をかけたりしていたが、悪い目つきを、いちべつくれるだけで、あとは知らんぷりだ。

ある時、家の入り口の扉近くに座っていた。
いつもと違う表情の可愛い顔をして、僕の方を見つめている。
ははあ〜ん。ご飯をもらおうと思うっているんだな。
声を掛けてくるこの人間は、ご飯をくれる人かもしれないと。
しかし、僕はご飯はやらない。
ずっと世話するわけではないから、猫に期待させるわけにはいかないから。

夜道を歩いていると、番犬は何かに取り憑かれたように吠えていた。
しかし番犬の目線の先には、人がいるわけではなかった。
居たのはあの太々しい顔をした野良猫だった。

野良猫は犬を煽るようにして、ちょこんと座って犬の方を見ている。
番犬はなおさら勢いよく吠えかかるが、鎖に繋がれていて、その先には行けない。

猫はそれをわかっていて、じっと番犬を見つめている。
僕は猫に近づいて行った。
久しぶりに会った猫を、近くでみたかったからだ。
しかし猫は、近くに来たことを警戒して逃げて行ったしまった。
そんなつもりじゃなかったのに。

すると番犬はピタリと吠えるのをやめて、僕の方を見ている。
憧れの目で僕を見ている。
宿敵を追い払ったヒーローのように。
そんなつもりじゃなかったのに、
番犬はそれ以来、僕を見て吠えることは無くなった。

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