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いろ日記 -日記小説-

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ある人の ある3月から8月の日記です。
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記事一覧

いろ日記 1【3/1-3/8】 -日記小説-

いろ日記 1【3/1-3/8】 -日記小説-

ある人の ある3月の日記です。

●3月1日 「 白 」

今日から、日記を書くことにしました。
たくさん書くのはむずかしそうだから、今日一日に合う色を書いてみようと思います。

今日の色は「白」。
新しいノートの1ページ目のすべすべした白色。

私の一番好きな色です。

●3月2日 「 白銀 」

すれちがう時にあいさつをしたら会釈をしてくれた方の髪がさらさら光っていました。
白銀色の髪色がとて

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いろ日記 2【3/9-3/16】 -日記小説-

いろ日記 2【3/9-3/16】 -日記小説-

ある人の ある3月の日記です。

●3月9日 「 朝の光の色 」

新たまねぎをうすくうすく切りました。
透きとおっていてとてもきれいだなと思いながら切りました。

半分は水にさらしてサラダに。
もう半分はマリネに。

新たまねぎの色は、レースカーテンからさす朝の光の色。

●3月10日 「 こいピンク 」

いつの間にか梅がこぼれそうに咲いていました。
こいピンクのそのまわりだけ、空気がぽかぽか

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いろ日記 3【3/17-3/24】 -日記小説-

いろ日記 3【3/17-3/24】 -日記小説-

ある人の ある3月の日記です。

●3月17日 「 ショッキングイエロー 」

すれちがった小さな女の子とお母さん。手をつないでお散歩かな。
まだ明るい夕方だけど、お母さんは反射材のたすきをかけていました。

たすきのショッキングイエローがその道の中で一番目立っていて、あたたかい色に感じました。

●3月18日 「 えんぴつのいろ 」

なつかしい歌が頭に流れてきました。何ででしょう。
その歌は、

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いろ日記 4【3/25-3/31】 -日記小説-

いろ日記 4【3/25-3/31】 -日記小説-

ある人の ある3月の日記です。

●3月25日  「 オレンジ色 」

中庭の側を通ると、この頃いつも一羽の鳥を見かけます。
オレンジ色の羽をしたその鳥はちょこちょこちょこちょこと庭を歩き回っています。
そんな姿を見るのが楽しみで、
友達に会えてうれしい気持ちってこんな感じかなと思いました。

●3月26日 「 だいだい色 」

今日は雨。
干草色の空き地が、雨に濡れてだいだい色に光っていました。

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いろ日記 5【4/1-4/7】 -日記小説-

いろ日記 5【4/1-4/7】 -日記小説-

ある人の ある4月の日記です。

●4月1日 「 青色 」

青色のジャンパーを着た男の子が少し緊張した様子で「おはようございます」とていねいなあいさつをしてくれました。
私も思い切って「おはようございます。いってらっしゃい」と言いました。
今日は、青色を見るたびにその子のあいさつを思い出しました。
それくらいに、いいあいさつでした。

●4月2日 「 灰色の水玉 」

空が灰色になったかと思うと

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いろ日記 6【4/8-4/15】 -日記小説-

いろ日記 6【4/8-4/15】 -日記小説-

ある人の ある4月の日記です。

●4月8日 「 ホワイトリネン 」

私は人のいない間に仕事を済ませるのが得意なんじゃないかと思っています。
今日も、よしよし誰も来ない、と思っていたら、人影が。
もうちょっとで顔を合わせるところでした。

柱の影からその人の持つハンカチが見えました。
パリッとしたホワイトリネン生地で、とても感じのいいハンカチだと思いました。
見覚えのないその後ろ姿をこっそり見送

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いろ日記 7【4/16-4/23】 -日記小説-

いろ日記 7【4/16-4/23】 -日記小説-

ある人の ある4月の日記です。

●4月16日 「 乳白色 」

熱が下がって少し楽になってきました。
今日も1日何もしないで過ごしました。
部屋がとても静かで、外から風の音や鳥の声がにぎやかに聞こえてきました。

今日の色は乳白色。うつらうつらする目に入る光の色。

●4月17日 「 空色 」

昨日聞こえた鳥の声が気になって、窓から外をしばらく見ていたけれど、声の主は見つけられませんでした。

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いろ日記 8【4/24-4/30】 -日記小説-

いろ日記 8【4/24-4/30】 -日記小説-

ある人の ある4月の日記です。

●4月24日 「 ルビー色 」

食パンをトースターで焼いて、いちごジャムをぬりました。
ルビー色の香りで目が覚めました。

●4月25日 「 白いまま 」

何もない一日だと思いたくなくて、
美しい色があればその日を美しく思い出せる、
そう思って日記を書き始めました。

でも、
白いページを白いままにしておきたい日もあります。

●4月26日 「 黒い円 」

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いろ日記 9【5/1-5/6】 -日記小説-

いろ日記 9【5/1-5/6】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。

●5月1日 「 白い切り取り線 」

今日から5月。

空にひこうき雲がまっすぐ伸びていました。
残されたひこうき雲はぽつぽつ途切れて、白い切り取り線のようでした。

●5月2日 「 信号機色 」

スーパーのレジ袋をゆらゆら下げて帰りました。
偶然そろった赤・黄・緑。
袋の中で、信号機色が揺れています。

おいしいサラダができそうです。

●5月3日 「 白の香

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いろ日記 10【5/7-5/12】 -日記小説-

いろ日記 10【5/7-5/12】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。

●5月7日 「 うすオレンジ 」

少し開けた窓から風が入って、カーテンが呼吸をしているみたいに、ふくらんだりへこんだりしていました。
カーテンと同じリズムで息をしていたら、ペースが合わなくて苦しくなった5月の夕方。
カーテンの向こうに、うすオレンジの雲が流れていました。

●5月8日 「 うつし絵紙色 」

半分の白い月が空に透きとおっていました。

空を見上げ

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いろ日記 11【5/13-5/18】 -日記小説-

いろ日記 11【5/13-5/18】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。

●5月13日 「 たんぽぽのわたげ、紅茶の湯気の色、このクッキーの色 」

坂野さんにおみやげのお礼が言えました。老舗のお菓子屋さんのものだそうです。今日、最後の一枚、大切に食べます、と言ったら、笑ってうなずいてくれました。

何だか、たんぽぽのわたげみたいな、紅茶の湯気みたいな、このクッキーみたいな方だなと思います。

最後の一枚、いただきます。

●5月14日

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いろ日記 12【5/19-5/24】 -日記小説-

いろ日記 12【5/19-5/24】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。

●5月19日 「 とうめい 」

坂野さんによく会います。
会おうとしているわけではないのですが。
むしろ、会わないように気を付けています。
坂野さんだけに会わないようにというわけではないですが。

透明人間のように、いてもいないみたいに働いて、そういう自分の働き方を気に入っています。

坂野さんのあいさつを聞くたびに、私のことが見える人がいるんだなと驚きの気持ち

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いろ日記 13【5/25-5/31】 -日記小説-

いろ日記 13【5/25-5/31】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。

●5月25日 「 あわい にじいろ 」

今日、坂野さんがアイロンしたハンカチを持ってきてくれました。
袋をのぞくと、ピンときれいなハンカチが淡い虹のように並んでいます。
うれしくて、坂野さんの顔を見ると、坂野さんも笑っていました。
「きれいなハンカチにアイロンをかけるの、楽しかったです。ありがとうございます。よかったら、また、持ってきてくださいよ。お願いします」

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いろ日記 14【6/1-6/8】 -日記小説-

いろ日記 14【6/1-6/8】 -日記小説-

ある人の ある6月の日記です。

●6月1日 「 ミックスソフト色 」

「大川さん、昨日はすみませんでした。一方的に。
見返りを期待してたわけじゃないことには違いないんですけど、あまりに一方的で、あの後、しまったと思って。いつもベラベラ突っ走っちゃうんですよ、僕。大川さんがせっかく用意してくれたのにごめんなさい。あの、今さらですが、もしよかったら、いただいてもいいですか?」
ということで、渡せて

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