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いろ日記 13【5/25-5/31】 -日記小説-

ある人の ある5月の日記です。


●5月25日 「 あわい にじいろ 」

今日、坂野さんがアイロンしたハンカチを持ってきてくれました。
袋をのぞくと、ピンときれいなハンカチが淡い虹のように並んでいます。
うれしくて、坂野さんの顔を見ると、坂野さんも笑っていました。
「きれいなハンカチにアイロンをかけるの、楽しかったです。ありがとうございます。よかったら、また、持ってきてくださいよ。お願いします」って。
不思議な人だな。うれしかったです。



●5月26日 「 さらさら麻色 」

今日は麻のハンカチをポケットに入れました。
ポケットに手を入れてさするとさらさらして、指にうれしかったです。

坂野さんのアイロンハンカチのおかげで、なめらかな気持ちで一日が過ごせました。



●5月27日 「 草の色 」

公園でお昼を食べていたら、ビルから出て来た坂野さんの姿が見えて、あ!と思ったら、続いて出て来た何人かの女性と一緒に通りを歩いて行きました。みなさんでお昼を食べに行ったのでしょう。

それは、とても華やかで、私は足元の草を見つめて小さくなっていました。

そうだよな。そうなんだよな。
私は単なる清掃業者。



●5月28日 「 草が返す夕日の色 」

スーパーに行って、袋をゆらゆらさせて歩いていました。
夕日が草原にさして、とても美しくて、
あ、これはしあわせだな、と思いました。



●5月29日 「 コーヒー色 」

今日は、お買い物に行きました。
気を取り直して、お礼はちゃんとしておかないと、と思って。
悩んで悩んで、あちこち行ったり来たり。

ハンカチで包まれたコーヒーにしました。

これをお渡しして、坂野さんとの関わりはこれで終わりにしたいと思います。



●5月30日 「 くもりガラスの色 」

今日は坂野さんに会わなかったので渡せませんでした。

残らないものにしようと思ってコーヒーにしたのに、ハンカチが残ってしまうことに気づいてしまいました。
もう、今さら変えないですけど。

すーんとする今日の私は、くもりガラスの色。



●5月31日 「 カフェオレの氷水色 」

「いやいや、お礼なんていいですよ。アイロンがけは、趣味ですから。大川さん、分かってます?いいですか?僕がハンカチにアイロンをかけますよ、ってどう考えても気持ち悪いじゃないですか?大川さんはそれをあっさり認めてくれて、すげー人だなー、心広いなーと思いましたよ。またハンカチ持ってきてくださいね」ということで、渡せなかった宙ぶらりんのお礼の品。こういう時は笑ったらいいのか、怒ったらいいのか、泣いたらいいのか。カフェオレを飲み干した後に残る氷水の色の気持ち。


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