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『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』 望海風斗さんのサティーンについて

喋るように歌う人だなと改めて思った。喜怒哀楽どんな時も。お芝居と歌の間に明確な境界線はなく、それでも、ショータイムの見せ方は圧巻。クリスチャンが冒頭に語る「これはサティーンの物語」の説得力の強さを存分に放ち続けた望海風斗さんに夢中な公演期間でした。

本当は千秋楽の8月30日が終わってすぐアップしたかったけど、タイミングを逃し続け、年も明け、チケット先行も始まり、あまりにも大遅刻だけどようやく投稿です。当時、千秋楽のカテコで望海さんがとても晴れやかな気持ちだとお話されていたように、私も結構な清々しさの中で2023年版ムーランルージュを終えました。余韻は残るけど、じめじめするものではなく、全て昇華されるというか。でもあんまりにも好きなので、そして今年も望海さんのサティーンに沢山お目にかかれますようにの願掛けを込めて、前回に引き続きキャストひとりに特化したnoteを生成。「好き」の証明と、思い出の結晶。今年の再演も超楽しみ!

※レポではない主観強めの感想です。
※タイトルのとおりなので他のことにはほぼ触れていません。


“輝くダイヤモンド” 望海風斗さん

ムーランルージュのナンバーワンとしてのカリスマ性と、悲劇俳優として懸命に茨の道を生きる苦しみ。「自分のため」じゃなくて「クリスチャンのため」になっていく愛の変化の過程。演劇は客席に100%を見せる必要はなくて多少余白を与えても良いものだと思うけど、望海さんは、観ているこちら側の感情をぐわっと掴んで最後まで離さず引っ張ってくれるのが本当にすごい。結ばれる幸せも、すれ違う葛藤も。宝塚時代の主演作品を考えても、身が引きちぎられるような辛い思いをして最後は愛する人の胸の中で息絶える展開は、やっぱりこの道のプロだなぁと痺れるほど唸りたくなるけど、もうほんとにそれだけじゃない。苦しそうに咳するのや死ぬのが上手いとか、視覚的に明確な物だけじゃない。そういう状況下での本物の空気を纏われるところまでとことん好きです。あと、絶対に逆らえない“死”を迎え撃つような最後の抵抗の中で見える煌めきにも、毎回心を奪われていた。

“僕のミューズ” 望海サティーンの無双が止まらない(曲順)

The Sparkling Diamond

昨年2月2日に日本初演のキャストが解禁されてからというもの、空中ブランコに乗る望海サティーンをもう何度想像したことか。正直あと5億回見ても満足できる気がしない。今年の再演が約束されずに千秋楽を迎えてたら、どうにかしてこの光景を脳裏に焼き付けられないかめちゃくちゃ悩んだと思う。脳内に常時再生可能なSDカードが欲しいよ!
「ダイヤは永遠」ってブランコの上から歌い出す望海サティーンにずっとめろめろになっていたい…ブランコの上から俗世に塗れた地上を覗き見るような純粋さと、罪深すぎる指クイがたまらない。ブランコから降りてからも、可愛らしさと、したたかさ、そしてパトロンや客席を含め会場まるっと吊った上に抱きにくる感じが本当に好き。
「手の甲にキスなんて」の「キス」が、旋律から離れて跳ねさせる時の不意打ち感が大好きだな。望海さんの歌唱は、割と基本の旋律とリズムに当てはめてくれるタイプだと思ってるけど、時折遊びを入れてくれるのが本当にたまらん。クリスチャンと同じような気持ちで、満を辞して登場する望海サティーンのこのナンバーを食い入るように見つめるおたくの瞳孔は開きっぱなしです。ムーランルージュのダンサーやLady Msを引き連れる“ママ”としての存在感もばっちり。ラストにはダイヤモンドのセットを背負う形になるのも本当にかっこいいなぁ。
劇中でアラビアからの「公爵はダイヤモンドを浴びせてくれる」とか、ジドラーからの「輝くダイヤモンドを見せろ!」とか、何度も“ダイヤモンド”という言葉が使われるのは、“お金で買われる”ことの象徴でもあったのかな。それでも、誰も砕けないほどの煌めき、そして心の強さを持った、本当に素敵なキャラクター像として君臨していた。

Shut up and  Raise Your Glass

こんな“いい女”の指クイに抗える人いなくない…?まぁ抗えないのだけど。Sparkling Diamondに続き、望海サティーンの引力に引きつけられまくり。
“公爵”(だとサティーンが思い込んでるクリスチャン)を品定めするようなその瞳と、クリスチャンの身体に指を這わせる艶かしさ。でも曲が始まっちゃうと、音楽に身を任せて自由に歌い踊るのが可愛くて。完全にお仕事モードで公爵を落とすことを第一に考えてる隙のない完璧な姿に垣間見える可愛さでみんな堕ちるよ。古くから親交のあるロートレックと、出会ったばかりのクリスチャンに見せる表情の違いもたまらん。
Your Songでサティーンはクリスチャンに心を溶かされるけど、Shut Up and〜はサティーンがクリスチャンの心を開いてるんだよね。その事実に劇中ではお互い気付いていないかもしれないけど、互いが互いの心を開く、その関係性がとても刺さる。書きながら思ったけど、なんでこんなにサティーンが好きなのかって、クリスチャンに助け出される“お姫様”ではないからだな。

Fireworks

とにかく圧巻の歌唱力と演技力!圧倒させられる客席!という構図の印象だった初日序盤から、エネルギーを使い切るサティーンの絶唱という流れに変わっていったように感じた。「圧倒させるの Oh  Oh」で歌いきり、思いっきり息を吸う呼吸音にやられました。
サブセンターやサイドの席から観ていると、斜めの角度でセンターにいる望海さんを拝む形になるけど、声が放物線を描くように感じる時があって(これは退団公演の雪組fffでも感じた)、2階にいると包まれるようにも感じて、本当に好き。望海さんの歌を劇場で浴びることこそ極上の喜びだと何度も噛み締めた。
Fireworksも、その後のYour Songも、2幕のCrazy Rollingもそうだけど、望海サティーンが鏡台を見つめ、自分自身と向き合う時間がとても好き。「マリー、あなたは誰なの?」と最後の劇中劇で自分に語りかけるけど、きっとこれは、何度も自分自身と向き合ってきたサティーン自身へのオマージュだよね。

Your Song

クリスチャンの純粋さと勢いとその真っ直ぐさに射抜かれて崩れ溶けるサティーン。クリスチャンもサティーンに吸い込まれそうだったけど、クリスチャンにサティーンも吸い込まれそう。デュエットで声が溶ける瞬間が好きなんだ。これまでのナンバーではサティーンの素晴らしさを堪能できたけど、望海さんのデュエットの極意をかみしめるナンバーでもあるなぁ。

So Exciting

「公爵おねがーーーーーーーーーーい!!!」の高音が綺麗に決まる望海サティーが大好き。劇中劇に参加しながらも、公爵を置いてけぼりにしないサティーンの絶妙な立ち位置が、慌しくもありコミカルでもあり。ここでコメディエンヌっぷりを存分に発揮されていた望海さん、あっぱれです。

Sympathy for the Duke

その艶っぽさたまらないよ。望海さんの白い肌って陶器みたいだなと、ムーランルージュならではの露出多めな公演の衣装だから尚更思うけど、このナンバーは妖しげな色香漂う照明も相まって本当に際立ってた。もうさ、ずっと発光してるわけ。W公爵との駆け引きも素晴らしかった。あくまでも公爵とは「仕事」だから、身体は売っても魂は売らないその矜持に痺れる。

Elephant Love Medley

世界が広がっていく望海さんの歌声、何度でも噛みしめたい。「僕と星を旅しよう」を実現されられた時の、夜空の星を見上げてパァァと表情が明るくなる望海サティーンに、客席のおたくの心まで溶かされるよね。初めてムーランルージュを訪れた時のクリスチャンのような無垢な表情がサティーンに広がるんだ。
クリスチャンのまっすぐな愛に触れて照れや恥じらいから喜びに変わっていくYour Songと、抵抗や迷いがありつつも“愛と青春の旅立ち”のメロディで一気に彼の愛を受け入れてガウンも脱ぎ捨てて自己解放に至るまでのElephant Love Medley。どちらも望海サティーンの心情の動きが愛おしすぎる。

Backstage Romance

もうサティーンのことしか見えてないクリスチャンと対照的に、カンパニーの女神のように振る舞うサティーンが印象的だった。リフトされたり、最後の決めも(自称グリコも可愛すぎるんだが)、とにかく神々しいんだ。ニニとのシスターフッドも大好き。

Come What May

ムーランルージュの楽曲の中で、初めから終わりまで何も起こらないというか、ずっと甘くて平和な楽曲がこのCome What May。でも、作品中でサティーンとクリスチャンが歌うデュエットとしては、一番現実に近い曲だと思ってる。「ある日 全ては輝くの」という歌詞のとおり、こんな過酷な状況ではなくもしもクリスチャンとどこか平和な場所で暮らせていたらと、そんな強い願いも顕になる曲。甘い展開だけど、甘くなりすぎずに強い意志を感じる望海サティーン。

Only Girl in a Material Girl

不本意な状況に囲まれる中で一人輝く恒星のようだった。「空から輝き続けるしかない」の歌詞がそう思わせるのかな、魂の叫びに近いものに感じる。Fireworkのように、直接的な訴えじゃないからこそ。https://x.com/xxx3220amo/status/1675348124175597568?s=20

Sparkling Diamondと同じ歌詞を当てはめてる構成も上手いよね……ほんと、ムーランルージュはそういうことするんだから(最高)。

Crazy Rolling

クリスチャンを指パッチンで目覚めさせる赤いドレスのサティーンは、目に涙をためながらクリスチャンの「僕と一緒に飛び立とう」のセリフを背中で聴きながらも、振り返ってクリスチャンと対峙する時には涙の影がもうなくて、どうなってるの望海さんの涙腺…?ってなった。
そしてCrazy Rolling、もう本当に、大好き。FireworksもCrazy Rollingも、なんでそんなか細い声がうまくマイクに乗るの…?ってなる。望海さんの神技。
楽直前にA列上手サイドで観劇できた時、サティーンの鏡台が目の前だったんだけど、もう望海サティーンに感情の生殺与奪の権を握られてるなと悟ったし、それが本望なんです。

失うものは何もない状態となったサティーンが公爵に言い放つ「私は誰のものでもない!」が本当に好き。やっと本音を言える。これから自分がどうなるかわかっているからこその悟りが、彼女の毅然とした態度の一因でもあると思うからすごく胸にくるけど、やっと自分に正直になれたのよ。
この後の、ハードな曲調も相まって「死」を迎え撃つような強さを感じる瞬間はかっこよくて。苦しい身体と引き換えに魂は自由なの。そしてサティーンからは既に公爵の存在は消え去って、迷いも消えて、望むのは「クリスチャンの音楽を世界中に聴かせなくちゃ」、その一つだけ。覚悟が決まったとてもかっこいいサティーンの心と、身体がどうにもならないその葛藤。気持ちでの葛藤は終わったのに身体はいうことを聞かないのがしんどいね。

Your Song Reprise

「僕を見て?サティーン…」と呼びかけられて振り向く望海サティーンの表情がほんとに天才。葛藤の先に行きつくゴール。
「あなたはやり遂げた」、クリスチャンを精神的な部分で包み込むのが望海さん演じるサティーンなんだと思う。最後のセリフの「私たちはずっと一緒」は、性愛的にクリスチャンを愛したいという願望もあるだろうけど、自分の死で彼の才能を途絶えさせないための誓いの言葉のようにも感じて。彼を愛しているけど、彼の才能を一番に認めた存在。
サティーンの視点で見ると、幸せなハッピーエンドのように感じるけど、クリスチャンにとってもある意味ハッピーエンドだったと思ってる。

“世界に一つだけの煌めき” サティーンへの憧憬

「類稀なる 誰も砕けない 世界に一つだけの煌めき!」ジドラーが“輝くダイヤモンド”であるサティーンを紹介する時の口上も大好きです。
Twitterでも何度か呟いてきたけど、私、本当にムーランルージュのサティーンが好きで、それはセーラームーンが好きというのと同じように、幼心に抱いたキャラクターへの憧憬みたいなものなのかな。
この物語を悲劇と捉えるのであれば、一番の被害者はサティーン。正直めちゃくちゃ可哀想。見方によっては、クリスチャン、公爵、そしてジドラーと、自分を必要とする男達から酷い目に合わされたと結論づけてもいいレベル。もっと言うと、13歳の自分を売った父親や、その姿を見て助けてくれなかったロートレックを含めて。この作品で一番何かを背負わされているのはサティーンで、クリスチャンと公爵から求められるという三角関係にいるだけじゃなく、ムーランルージュの“家族”も彼女にぶら下がっているような状態。だけどサティーンは、自らの力で世界を切り拓いて今のナンバーワンの地位を手に入れた。そんな彼女に惚れないわけないよ。そして、その役を望海さんが演じているなら尚更。
サティーンという役を通して何にでもなれる望海さんの凄さを覗き見た、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』でした。

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