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英国・・・イングランド・スコットランド・アイルランド・ウェールズのロックシーンについて Part10 Fontaines D.C.『A Hero's Death』

Fontaines D.C.はボーカルのグリアン・シャッテン、ギタリストのカルロス・オコネル、ギタリストのコナー・カーリー、ベースのコナー・ディーガン、ドラムスのトム・コルによる、アイルランドはダブリンの5人組バンドだ。

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ボーカルのグリアンは母親がイギリス人と父親がアイルランド人のあいだに生まれたハーフで、トムとディーガンはメイヨー州カッスルバー出身、ギタリストはカーリーはモナハン州エミーベール出身、もう一人のギタリストのカルロスはスペインのマドリッド育ちだ。

2017年に5人はダブリンのリバティーズにあるBIMM(British and Irish Modern Music Institute)の音楽大学に通っていた時に出会い、バンドを結成している。当時はジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグといったビート・ポエトリーにインスパイアされた「Vroom」という詩集と、パトリック・カバナ、ジェームズ・ジョイス、W・B・イェイツといったアイルランドのポエトリーにインスパイアされた「Winding」という詩集をまとめて発表。バンド活動や音楽とともに、彼らはリリシズムでも繋がっていくことになる

グリアンはFontaines D.C.を始める前、地元のインディー・ロック・バンドのガン・ランナーとサムプリントの一員として、それぞれドラマーとギタリスト/シンガーを務めていた。Fontaines D.C.というバンド名は、映画「ゴッドファーザー」に登場するアル・マルティーノ演じるジョニー・フォンタンと、頭文字のD.C.は「ダブリン・シティ」の略から取られている。

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彼らのデビューは鮮烈だった。ブリストル出身のIDLESとおなじインディーレーベルPartisan Recordsと契約し、2019年4月に『Dogrel』がリリースされると、アイルランドやイギリスの批評家筋からの大きい評価をうけ、リスナーからの評価も上々になっていく。

アイルランド・スコットランドのチャートでは4位、イギリスのチャートでは9位、ヨーロッパ各国でも低位置ながらもチャートインするなど、新人バンドとしては大きなセールスを生み出した。

ヨーロッパやアメリカを周るツアー、デビュー当時から比較されつづけてきたShameやIDLESとの対バンなどなど、わずか1年ほどで彼らの状況はめまぐるしく変化したのだ。結成から、わずか2年でこの流れ、とんでもない速さだ。

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セカンドアルバムを見据えた制作へと移っていったバンド陣。ここで彼らでの彼らの準備を見てみよう。結成数年の若きバンドのセカンドアルバムとしては、正直破格のものだ。

Gang of Four、PiL、Killing Joke、Nick Cave and The Bad Seeds、Yeah Yeah Yeahs、Arcade Fire、IDLESらをプロデュースしたNick Launay(ニック・ローネイ)を招集。レコーディングスタジオに選んだのは、ロサンゼルスのサンセット・サウンド・レコーダーズだったのだ。

ハリウッドに居を構えるスタジオとして、ディズニー映画の音楽制作スタジオとして作られ、「バンビ」「メリー・ポピンズ」「101匹わんちゃん」という名作の劇伴制作で使用される。

ローリング・ストーンズの『Exile on Main St.』、ザ・ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』、Led Zeppelinの『Led Zeppelin IV』、プリンスの『Purple Rain』、The Doorsの『The Doors』と『Strange Days』・・・枚挙に暇がないのでURL張っとくんで勘弁してください!!

ちなみに、日本だとTHE YELLOW MONKEY『9999』、はっぴぃえんど『HAPPY END』、矢沢永吉『いつか、その日が来る日まで』、ユニコーン『Z』『ZⅡ』(奥田民生がソロ活動時に『The STANDARD』や『ヘヘヘイ』の制作時に録音スタジオとして使用してる)、Mr.Children『SOUNDTRACKS』などで使用されている。

ポップミュージック史のなかでも指折りの名スタジオを使ったレコーディングだったが、彼らは制作が進むにつれて違和感を覚え、最終的にはボツにすることになる

“Our schedule made dreaming necessary,”says Grian. “We listened almost exclusively to music that was conducive to dreaming. Even ‘The Breaking Hands’ by The Gun Club… all of it was music that sounded like it might have been coming from underwater and created a place for us to rest our heads… we needed to poke a hole in the tyre and let some air out, and that’s what this album was.”
「ぼくたちのスケジュールでは、夢を見ること、休みが必要でした」とグリアンは語る。「そういうこともあって、ぼくたちは、ほとんど夢を見るのに適した音楽しか聴いていませんでした。たとえばThe Gun Clubの「The Breaking Hands」みたいな、海中から聞こえてきそうな音楽で、頭を休める場所を作ってくれました。タイヤに穴を開けて空気を抜く必要があった、それがこのアルバム『A Hero's Death』でした"
https://www.hmv.com/music/fontaines-dc-a-hero-s-death-interview
コナー「ニックは良い人だけど、僕らとはまったく別のヴィジョンを持っていたんだ。ニックの好きな作業方法は、僕たちとは違ったものだったんだ。彼は、一つの曲を何度も何度もテイクして、それぞれのパートを完璧に仕上げるのが好き。真面目なプロデューサーにはそういう人が多いよね。ダンは、僕らが非常にせっかちで、そのようなことが好きではないことを理解していました。多少のミスがあっても、1テイクに魂がこもっていれば、それでいいと、僕らはそういうタイプ思っています。」
https://www.hmv.com/music/fontaines-dc-a-hero-s-death-interview

もっとも酷いときには、グリアンは興奮状態と飲酒が影響となって8日間眠らずに過ごしたと言われており、その結果、バンドは一連の公演をキャンセルしてアイルランドに戻ることになるほどに追いつめられることになった。

こういったバンドの疲弊や、めまぐるしく変化していった自身らの心境・状況が絡み、一連のレコーディングをすべてボツにすることになったのだ。

ファーストアルバムで共に制作をしたダン・キャリー(レーベルのSpeedy Wunderground主宰)とタッグを組み、再制作をすることになる。

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ここでSpeedy Wundergroundについて書いてみよう。近年のUKロックでも重要なレーベルと人物についてだ。

2013年にDan Carey、Alexis Smith、Pierre Hallの3人でスタートさせたレーベルSpeedy Wundergroundには、公式サイトにもかかれた10個の項目がある。Planという言葉を使っているが、もっと言ってしまえば『知っておいてほしいこと』だと思う。そのなかでも、とても重要な部分がある。

・Recording of all records will be done in one day and finish before midnight. The recordings will be a snapshot of the day. Mixing will be done the day following the recording, also in one day only. This will prevent over-cooking and 'faff'.
・There will be no lunch break during recording and mixing days.
・Overdubs will be kept to a minimum allowing the recordings to be free of clutter.
・Speedy Wunderground Records will not be slow.
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・すべてのレコードの録音は1日で行い、深夜12時前に終了します。録音はその日のスナップショットとなります。ミキシングは録音の翌日に、これも1日だけで行います。これにより、調理のし過ぎや手間を防ぐことができます。
・レコーディングとミキシングの間には、昼休みはありません。
・オーバーダブは最小限にとどめ、雑味のないレコーディングを行います。
・Speedy Wunderground Recordsはゆっくりしたものではありません。https://www.speedywunderground.com/about/

これらのモットーこそ、Speedy Wundergroundのコアと言えよう。

Squid、Black Country, New Road、black midi、彼らの初期作品はほぼ一発録りで録音されていることを彼らはインタビューなどで答えているが、バンド当人らの嗜好性でもあり、レーベルの色といってもいいだろう。というか、レーベルや発売元が違えど、ダン・キャリーがプロデュース・ミキシング・エンジニアリングが携わると、ほぼほぼこういった「一発録音」なレコーディングになるんじゃないだろうかと思われる。

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そういったことも踏まえて、Fontaines D.C.『A Hero’s Death』が発表された・

アルバム・ジャケットには、アイルランド神話の半神クー・フーリンを彫刻家オリバー・シェパードが制作した「The Dying Cuchulain」が使われている。ダブリン市内の中央郵便局(GPO)内にあるブロンズ像が元になってるらしく、ダブリン市内で郵便局を使う人なら、誰でも気づくようなレベルの事物がモチーフといえよう。

そんな親しみやすい石像をジャケットにした作品、綴られたアルバムタイトルが『A Hero's Death』、ケルト神話においては半神半人の大英雄であるクーフーリンを使って「英雄の死」なんて、一部界隈から文句が出てきそうくらいのエッジさだ。グリアンによると、アイルランドの作家Brendan Behan(ブレンダン・ビーハン)の戯曲「The Hostage」からインスピレーションを得たタイトルだというという。

このアルバム、例えばポストパンクによくあるような、金属音そのもののといた鋭い音のギターリフや、オーソドックスさのなかに突っ込まれる変拍子と唐突に入るドラムのオカズによるヘンテコさ、といった部分は多くない。それらは前作『Dogrel』であったり、ShameやIDLESの最新作に期待しよう。クールで、冷たく、でもアグレッシブなサウンドではない。

今作にあるのは、ほの暗いムードで、ヒリついたダークなムードだ。こういったサウンドも、聴く人によれば切り付けるような高圧なものに聞こえるだろうか。だが、無音になるパートが多く、ひとたび音を出せばあまりハーモナイズされていないようなバンドサウンドが引きずり出される。不協和音をずっと引きずっていくサウンドスケープは、間違いなくポストパンクの質感だ。

そういったムードは、序盤を飾る「I Don't Belong」と「Love Is The Main Thing」に顕著に表れている。地元から遠く離れて音楽をかき鳴らし続け、素晴らしきキャリアの始まりにおいて、彼らが今作で表現したのは、それまでとは様変わりしていく自分たちの生活、それに伴って生まれた孤独や空白感についてだ。

グリアン「当時のぼくの生活というと、自分の個性を脅かすようなものがあったと思う。人生で初めて本格的な恋愛をすることになって、自分を見失ってしまうのではないかという不安があったんだ。」
「あと、ぼくが気づいていた大きな脅威というと、自分たちの音楽やバンドに対する賞賛やフィードバックや批評、つまりぼくたちの音楽に対する他の人からの期待だったんだ。ぼくは人を喜ばせることにとても敏感だと思います。でも、僕自身が信じていないことを無理に言ったり、幸せそうにしたり、エネルギッシュに振舞ったりすることで、イヤな気持ちになってしまうことがよくあります。そんな気持ちが積み重なって、「I Don't Belong」が生まれたのだと思う。」
グリアン「ツアーから帰ってきたときの孤独感は、やはり顕著ですね。家に帰ってきても、他の人に元気かどうか聞くことにも慣れていないし、他の人たちが話していることを聞くのも慣れてないんだ。なんでかっていうと、話し相手は自分のことばかり話しているわけで、自分のことを直接話していなければ、スケジュールか他の何かについて話すんだ。そうすると、帰ってきた人たちとの間に溝ができてしまうんです。その距離感や孤独感が、このアルバムに影響を与えていると思います。「愛を受け入れられるようになりたい」という思いも込められているような気がします。(「Love Is The Main Thing」について)」
https://www.stereogum.com/2092383/the-story-behind-every-song-on-fontaines-d-c-s-new-album-a-heros-death/interviews/footnotes-interview/

怒りをぶつけ合うようにして表現されたトゲトゲしさより、丁寧に音を重ね合ってうまくヒリついたムードを表現している。ロサンゼルスで一度は完成寸前までいったこともあり、再収録時にはすこしだけの練習のみで、ワンテイクで収録されたという。長くなるが、とある楽曲についての話をあげておく。

シャッテン「最初に「Live in America」のジャムを始めたときは、もっと研ぎ澄まされてたんだよ。誰かが明確に言ったかどうかはわからないけどが、「みんな好きなように演奏してくれ」という感じだった。」
オコネル「最初は曲にハーモニーも何もなかったのですが、最終的には曲の途中でハーモニーを導入して、何らかの形で解決するような方法を見つけました。音楽的に影響を受けているのは、スーサイドやキャバレー・ヴォルテールなど、初期のエレクトロニック・ノイジーなバンドが多くて、スペースメン3にもインスパイアされました。実はこの曲にはベースがありません。ベースのコナー・ディーガンはベースVIを弾いていて(おそらくフェンダー・ベースⅣのことで、このベースは6弦ベース)、その楽器で出せる一番高いの音を出しています。レコーディングの際には、低音がまったく出ていなかったので、ダンはオレのギターをベースアンプに通して、エフェクトを全部かけて曲全体のローエンドを作ったんだ。それから、この古い楽器で・・・クラビオリンでも曲のローエンドを作ったんだ。」
「これはオルガンのようなもので、横に押した棒で演奏すると、音が膨らんだり消えたりします。かなり古いものだけども、一番低い音域を演奏するとスピーカーが内蔵されていて、素晴らしいサブサウンドを生み出します。実は前作の「Hurricane Laughter」でもこの楽器を使っています。ハーモニーのない、ただのゴロゴロとした音を維持することができたよ。この曲は、音の壁を作るために、スタジオでかなりの時間をかけて作った曲のひとつです」
https://www.stereogum.com/2092383/the-story-behind-every-song-on-fontaines-d-c-s-new-album-a-heros-death/interviews/footnotes-interview/

「ファーストアルバムは偶然の産物、絶対に同じようなものは生み出せない」と口々に語った彼らは、ファーストアルバムと同様のサウンドを求められても、それには応じなかった。80年代におけるポストパンクやUSハードコアを感じさせたファーストから、グレアムが例にあげたスーサイド、キャバレー・ヴォルテール、スペースメン3はまさしく彼らのサウンドのなかから見つけることができる。

と同時に、ツアー中によく聴いていたというリー・ヘイゼルウッド、ブロードキャスト、ビーチ・ボーイズといった、ソフトロック風味で穏やかにハーモニーに酔いしれる質感も、確かにこのセカンドアルバムには感じられるところだ。

低音部をかなりファットな状態にし、多少のエコーサウンドも加わることで独特な不穏さやアンニュイさが漂わせる。心地良いようでいて、不安を掻き立てるサウンドスケープや不協和音。この不安定感を一層強めるのは、シャッテンによるボーカル、というよりも言葉を連ねるような独特のスタイルだ。

メロディラインを追いかける典型的なボーカルではなく、ポエトリー・リーディングのようでもある。低めのローボイスを強調した声色で淡々と言葉を吐いていくスタイルは、ローテンション、抑揚は最低限以下、シャウトもほとんどない。ファーストアルバムと同じスタイルながらも、脚色を全く感じさせないリアルさは、エンターテイナーな姿では全くない、まさしく「フツーの人の声」のように突きつけられる。

確かに今作を聞いたときに、ファーストでハマったファンからすれば「え?」と驚かれるだろうか。ロックバンドに期待するようなアグレッシブさだったり、攻撃性を求める人にとっては期待外れになるだろう。

このセカンドアルバムは自身らの音楽性を押し広げることに成功したアルバムだと言えようし、同世代のバンド群とは別のポジションを確保した作品だとも言えよう。結成から5年も満たないなかで、強いコアを持ち合わせる彼らの未来が気になる。というか来日ライブが見たいです、マジで。

I don't belong to anyone
I don't belong to anyone
I don't belong to anyone
I don't wanna belong to anyone
私は誰のものでもない
私は誰のものでもありません
私は誰にも属していない
誰にも属したくないんだ
「I Don't Belong」
Down by the docks
The weather was fine
The sailors were drinking American wine
And I wished I?could?go back to?spring again
Now they're all gone
That's life moving on
Some stayed behind to get drunk on the song
And they wish they could go back to spring again
Oh, such a spring波止場のそば
天気は快晴
船員たちはアメリカのワインを飲んでいた
そして私は春に戻りたいと思った
もうみんないない
人生は進んでいく
歌に酔いしれるために残った者もいる
そして彼らは春に戻りたいと願っている
ああ、こんなにも春が
「Oh Such a Spring」

I was not born
Into this world
To do another man's bidding
All you antiquated strangers
All throwing in?the?towel
To do another?man's bidding
私は生まれていない
この世界で
他人の言いなりになるために
時代遅れのよそ者たちよ
みんなでタオルを投げて
他の男の言いなりになるために
「I Was Not Born」
When you go down to that place
It makes a monster of your face
It makes you twisted and unkind
And all the right words hard to find
There's no living to a life
Where all your fears are running rife
And you're mugged by your belief
That you owe it all to grief
Even when you don't know
Even when you don't
You feel, you feel
Even though you don't know
Even though you don't
その場所に行くと
あなたの顔を怪物にしてしまう
ひねくれ者で不親切な人になってしまう
正しい言葉を見つけるのは難しい
恐怖が蔓延している人生には、生きる意味がない
恐怖が蔓延している場所で
悲しみのせいだという信念に襲われて
すべては悲しみのおかげだと思っている
あなたが知らなくても
あなたが知らないときでも
あなたは感じる、あなたは感じる
あなたが知らなくても
あなたが知らなくても
「No」

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