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さよならオンキヨー〜ミニコンポ代理戦争のころ

同志Aからのお題:横顔

折につけて思い出す。1980~90年代、ミニコンポ市場が熱かった日々のことを。幅33㎝のボディに、日本の音響・家電メーカーが新たな技術を詰め込み、機能やデザインを競い合っていたことを。

ミニコンポは地層である。下から順に、オートリバースのWカセットデッキ、映像機器との連携が売りのアンプ、ピコピコ光るスペアナ付きグラフィックイコライザー、普及し始めたCDプレーヤー、デジタル表示のFM/AMチューナーが積み重なり、一番上には重鎮のレコードプレーヤーを戴く。ドルビーサラウンドや留守番電話機能付など、てんこ盛りにてんこ盛りを重ね、時代とシンクロするようにバブル化した。

ミニコンポは合戦である。技術的な競争だけはなく、宣伝もにぎにぎしくヒートアップ。アイドルたちによる代理戦争の様相を呈していた。

・パイオニア private 中森明菜
・ビクター CREATION 小泉今日子
・ケンウッド ROXY 富田靖子 → チェッカーズ
・ソニー Liberty レベッカ
・オンキヨー Radian 南野陽子
・松下電器(Technics) SPACE 薬師丸ひろ子
・シャープ TODAY 松本伊代 → LIVE 荻野目洋子
・東芝(Aurex) 原田知世 → 本田美奈子
・日立製作所(Lo-D) WING 中山美穂
・日本コロムビア(DENON) CONCEPT 後藤久美子
・赤井電機・三菱電機(A&D) GX COMPO 杉本彩
・三洋電機 八木さおり
・サンスイ MIGHTY 早見優
・ヤマハ EDGE 平忠彦(バイクレーサー!)

まさに百花繚乱。カタログ集めが楽しかった。

中でも高校生時代の私が気になっていたのが、カタログでナンノがほほ笑むオンキヨーの「Radian 01X」だった。貯金を握りしめて買う寸前までいったが、デザインの細部が気になって踏ん切りつかず。最終的には、だいぶ後に、他社製のミニコンポを迎え入れたのだが、カセットデッキ部の故障が多くて困った(何度修理に出したことか…)。

近年のオーディオ市場は環境の変化で、沈んだり、消えたりするメーカーが相次ぐ中、オンキヨーはハイレゾ配信など果敢に攻めていたが、台所は火の車。ケイマン諸島の投資ファンドに接近して状況打開を図ったものの、筋のよくない増資になって大失敗。パイオニアとの一部事業統合も重荷となり、ついに自己破産を申請するに至った。

オンキヨーの顔だったナンノは、1986年のシングル「接近(アプローチ)」でこう歌っていた。

♪好きよ あなた 好きよ あなた 横顔に ほらアプローチ

苦境に陥ったオンキヨーがアプローチの末に見たのは、カリブ海のファンド氏の冷たい横顔か、狡猾な裏の顔か。

家電量販店のオーディオフロアを歩く。今や主力はスマホとBluetoothでつながるヘッドホン・イヤホンや小型スピーカーの類だ。ミニコンポたちがひしめき合っていた時代は遠い昔。つわものどもが夢の跡。恐竜から哺乳類へ、戦艦から航空機へ、大から小へと主役は移る。

名門は看板を下ろしたが、MBOで独立した3代目「オンキヨー」やシャープなどに引き継がれた事業もある。オンキヨーのDNAよ、踏ん張るのだ。「ナンノこれしきっ!」と。


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