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ある晴れた新年のひとコマ

Now&Here#12  (2015年1月のある日)
佐野元春&The Coyote Band  
2014Autumn Tour at 渋谷公会堂

柴犬のみどりは今朝はことのほかご機嫌で
しっぽをふりふり、 誰もいない公園の大地を
軽快に踏みしめて時々鼻歌を歌ってる。

冬の空では太陽が青く澄んだ空を低い軌道で
たおやかな旋律を奏で、その片隅では白骨の様な
月のかけらが浮かんでる。

朝起きて、ご飯を食べて、必死に働いて、
浅い眠りにまどろむ。 奇跡のように繰り返してこれた日々。

気が付くとそこでは何の音もしなくなっていた。

心臓の鼓動が自分の体を叩いていることに気づく。

吐き出された血液は体中を流れ続け、
鼓動が止まるまでぼくの時は流れ続けていく。

計画して、経験して、挫けて、犠牲にして、
傷ついて、育って、失ってなおまだ何もわかっちゃいなくて、
寒風吹きすさむ公園に立ちすくむ。

ふと、なぜか去年の晩秋のよく晴れた日のあの街で、
ロック音楽が鳴らされたことを思い返していた。

東横線が地下のホームになってから、
はじめて訪れた大嫌いな渋谷の街はいつだって
様々な事情を抱えた人の波に洗われて更に更に様相を変えていく。

誰もがこの世界の仕組みを熟知して理解して折り合いをつけて、
クールに立ち振る舞っている。

いつまでたってもふがいなく、影の様に付きまとう
俺のコンプレックスは増幅されていく。

会場の緞帳は下りたまま、スティーリーダンの音源が
さりげなく流れている。
周りでは徐々に知り合い同士が言葉を
交わし暖かな雰囲気に和む。

正面を見てみると気が付くのは、PAシステムの
出どころのスピーカーが すっきりとこぢんまりとあるのがわかる。
ひとむかし、ふたむかし前のライヴでのスピーカーのたたずまいは
ステージ両脇に山の様にそびえていた。
あの景観は当時ではライヴに来ている迫力と実感を感じていた。

定刻が過ぎた頃、緞帳の内側にメンバーが揃い、
和んだ空気を掻き乱す様にサウンドが鳴り響く!

「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」

演奏された過去の楽曲のサウンドはその曲の本質はそのままに、
曲想はまさしく佐野元春&TheCoyoteBandオリジナルで
鳴らされているのに気付く。

新たなPAシステムから流れる音は圧縮され端折られた音とは
明らかに異なった突き刺さる音がこの会場を満たすのがわかる。

その音の立ち上がりは、ハーモニー、各楽器のアレンジの咬み合い、
詳細な細工がクッキリと鳴らされ、無意識にこんがらがった
心の糸をほぐしにかかる。

「星の下、路の上」から始まる
佐野元春&TheCoyoteBandのオリジナルサウンド。

ぼくの今のテーマソング「La Vita e Bella」、
リフと言葉が突き刺さる「ポーラ・スタァ」

腰掛けて聴くメロウな音でさえザクッと身体の
どこかに生きてるしるしを刻むのがわかる。

新曲も演奏された。ひとつは佐野元春の
ポールマッカートニー・サイドとも いえる様な
とても親しみのあるメロディーとアレンジで聴かせる
「君がいなくちゃ」

そして、もう1曲は「優しい闇」。
たたみかける様に放つ言葉とガッツなグルーヴ。

この先を行くのが見えました。

混沌から秩序。静から動。ラフとスムース。

バグパイプの音色が聞こえてくる・・・・。

”ぼくはどこにも行けるさ、けれどどこにも行けない”

   Gee Bop Do be Do...。

佐野元春はステージで話した。

「憎しみの先にあるのは、 暴力 。」

「暴力はすべてをダメにする。」

憎しみの連鎖に歯止めをきかせなければ........。

我に返る。

のどかな冬空の下。

あぁ、ぼくの来し方行く末は、
おなかをへらしたみどりのご飯の足しにもなりゃしない。


 しなやかにしっぽが揺れている。


今一度、足下をしっかりと見つめ直して
今一歩、明日へ 踏み出してみようか・・・・・・・。


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