太陽フレアが降り注ぐ夜
NOW&HERE#02 (2005年7月記)
アルバム「THE SUN」がリリースされてから、1年が過ぎました。
その間ぼくは通勤の行き帰りや子供達の寝静まった真夜中、
遠くの空が白み始めた頃に眠れずに起き出してヘッドフォンで
聴いた朝、そんな風にくり返し繰り返しその記録された音源を聴き、
いくつかのライヴを目撃してみた。
文句の付けようのないアルバムと完成度の高い
佐野元春 & The HoboKing BandのLiveパフォーマンスは
これまでとこれからを示唆するとても魅力的なサウンドと
言葉や物語にみちあふれている。
そして、このサウンドはここにいるぼくらに有機的に
直結している気がした。
今日のこの世界にあふれる様々なサウンドは、
ぼくらが音楽に気が付いた頃に比べてさらに気軽に
さらに気楽にファッションのひとつとして身につけられ、
そして自分をごまかすアイテムとしても扱える。
ぼくらが音楽に求めていたのは心を躍らせ、
背伸びをさせて何処かへ見知らぬまだ見ぬ世界を垣間見せて
くれるサウンドの中の魔法。
確かにいつかぼくが感じたことをもう一度
このアルバムが見せつけてくれた気がします。
2004年10月16日 東京は渋谷でのツアー前半でのライヴ。
いつもは開演前にステージ上の楽器を見ることが
出来たけど今回は幕が下りている。
そうした演出でその奥で何が成されているのかは
見当も付かないが、それもまた心を躍らせる。
2部構成とのお知らせ。
開演までのインストゥルメンタルは"Jazz"
客電が落ち、サウンドのボリュームが徐々に上がり、
オーディエンスを煽る。
聞き覚えのあるドラムスのリフ。
幕の後ろからまばゆい街路を思わせるフラッシュライト。
彼らが再び路上に戻ってきたんだ。
佐野さんは真っ白なスーツにハンドマイク。
はじめはバンドに佐野さんのギターグルーヴが
不足した感のあるハンドマイクで歌い続ける姿に少し
戸惑いを感じながらも佐野元春の真髄を貫く選曲は熱くしなやか!
「BackToTheStreet」「SoYoung」「Happyman」「Yeah!SoulBoy」
The Hobo King Bandのサウンドは瞬く間に音の洪水へと誘い込む。
前半のハイライトは佐野がスチール椅子に腰掛け
アコーステックギターを手にしてはじめられた。
「ぼくは大人になった」から「また明日・・・」「風の手のひらの上」。
この流れのハイライトは中盤の[神奈川県民ホール]では、
さらに磨きがかかり、そして最終日[NHKホール]にて
頂点を極める目のくらむサウンドを感じることができた。
第1部の後半は佐野元春 & The Hobo King Bandサウンド全開に
よる久しぶりに演奏される「99BLUES」、
そして「Individualists」会場は真っ赤に燃え上がるかのようだった。
2部構成の間のインターバルに、小粋な冊子をぼくは
手にして眺めていた。
思えば Rock & Roll Nightツアー と Visitorsツアーとの間には
佐野元春との交流の場はラジオと
[THIS]といった雑誌メディアにあった。
今回のツアーパンフレットには特別号として[THIS]が発刊された。
サブタイトルは"Steppin'Out!"
それにまつわるコラムやバンドのメンバーが選ぶ
このおすすめのアルバム、その他トークセッション等に加え、
まぶしい青い空もとでのTHE SUNのフォトセッションが飾られていた。
ぼくはそれらを熱い興奮の続く中 ぼんやりと眺めていた。
第2部開演の合図。
印象的なアコースティックギターのストローク。
アルバム「THE SUN」トップを飾る「月夜を往け」で
幕を開けた第二部。
ステージセットは大がかりなアルバムジャケット
そのものを再現したあの「壁」が
佐野元春 & The Hobo King Bandの背後に
そしてぼくらの目の前にそそり立っている。
佐野さんは真っ赤なスーツ。小さめのスツールに腰掛け、
ハンドマイクで揺れながら唄う。
続くアルバムと同じ曲順、
「最後のワンピース」、「恵みの雨」の
佐野元春 & The Hobo King BandのFUNKYサウンド。
レコードでは感じ取れないニュアンスがライヴでは
壁に反響させるかのようにぼくらの前に
ありありと立ち上がらせる。
壁の前での佐野元春 & The Hobo King Bandは
さながらキャバーンクラブのビートルズか、
ダニー・ハサウェイ「LIVE」のバックジャケットを思い浮かべる。
再びマーチンのアコースティックギターを手にして
「希望」と「地図のない旅」を演奏する。
どちらも今ここにいる自分の胸に迫る楽曲であり
そのサウンドのひとつ一つが目の前にこぼれ落ちる
瞬間の痛みと幸せを同時に感じる。
月夜からはじまる第二部はやがて往く先を
見失いそうな真夜中へとたどり着く。
「観覧車の夜」
"MilkJAMツアー"では「フィッシュ」と呼ばれていた。
そのころからとても気になる楽曲でアルバムでは
ラテンのアンサンブルで仕上げられていた。
しかし、このツアーのライヴではこの他の楽曲では、
ほぼアルバムのアレンジに忠実に鳴らされていたけれども
この楽曲は違っていた。
特に前半と中盤で観た2つのライヴパフォーマンスでは
これ以上ないほどの暗闇、もしくは光の届かない深海で
のたうちまわるかのような深く暗く重いサウンドのようにぼくは感じた。
この世界に生きる僕たちが産んだ底知れぬいくつもの暗闇、
ストレス、居心地の悪さを回り続ける観覧車から眺めた夜を
ここでは見せつけているかのようだった。
この「観覧車の夜」は最終日のNHKホールでは、
それまでぼくが観たパフォーマンスとはまた違った、
とても軽快でいて力強いサウンドに変わっていた。
この曲だけに関わらず山本拓夫さんが加わったことと
関係しているのかどうかわかりませんが、
いくつもの楽曲のニュアンスが最終日では違って聴こえた。
ひとつのツアーで楽曲が育つというのは、こういうことかもしれない。
そして微笑ましいオーディエンスとの世代についての話に
続いて演奏されたのは21世紀が明けてから創り上げられてきた楽曲。
「君の魂、大事な魂」
当初は"Sail on"と呼ばれていた。
何かが始まる予感、気配がこの三連符の力強いサウンドに
裏打ちされるかのように転調をした瞬間のまばゆく
舞い上がる高揚感はこの曲ならではであり、
アルバムの中 そしてライヴの中で
ここしかないという曲の並びで舞い上がる。
「明日を生きよう」では巧みなサキソフォンの鳴り渡る中
「もう大丈夫!」と唄いながら
立ち上がり佐野さんはスゥイングし始める。
メロディの際だつ大人びたサウンド。
バンドの新たなグルーヴがここにも顕れていた。
続く「DIG」~「国のための準備」。
佐野元春 & The Hobo King Bandの「Rock & Roll」
「国のための準備」は渋谷では間でセットリストに
数えられていなかったが中盤を過ぎたあたりから
加えられるようになっていたようです。
そのイントロでは体中の神経が瞬時にレッドゾーンに
跳ね上がり佐野元春 & The Hobo King Band音の
真髄を観た気がした。
見事に曲のインターバルさえ計算に入れた
雪崩のようにぼくらを飲み込んで行く。
轟音の響き渡った後、つかの間の静寂を挟み
新たなグルーヴがアコースティックギターによって刻まれる。
"GOD,夢を見る力をもっと"、
"GOD,ここにいる力をもっと"と唄われる。
「太陽」。
穏やかなサウンドの中で言葉は切り刻まれ、
ぼくらの中で新たに生成されて行く。
言葉とビートの隙間をかいくぐりながら
鳴り響くストリングス・アレンジ。
いくつかの"祈り"と共に壁は左右に分かれそこには青空が広がる。
21世紀を迎え、様々なそこはかとなく
にじり寄る不可解さや居心地の悪さ。
勝ち組と呼ばれる人々が我が物顔で大手を振る。
負け組と言って冗談かのようににこやかに
一蹴する者たちそしてされる者たち。
行き先を見失い、単純に今だけのその場に
安心感と安住の居場所を見いだそうともがいている。
その場しのぎの毎日。黙って見過ごす言い訳ばかりの生活。
子供達はみんなクレイジー。
毎日の生活にあくせくして行くしかない自分。
子供達に伝えられることは何なのか....。
アルバム「THE SUN」のジャケットの一発を食らった写真。
内なる太陽がこぼれ落ちないように
ボタンを留めようとしているのか?
内なる太陽をさらけ出そうと
はずそうとしているのか?
一撃を食らったその顔が再びこちらに向き直ったとき、
その顔はぼくに似た顔かもしれない。
そして、アンコールでは今までライヴで
演奏されたのを聴いたことのない
「Bye Bye Handy Love」
再び佐野元春ならではの楽曲を
The Hobo King Bandで蘇らせてくれた。
続くアンコールは剛速球の「アンジェリーナ」
「悲しきRadio~メドレー」
これは99年Stones & Eggsツアーに始まり
MILKJAMツアーにて「NightLife」の一部が加えられた、
途中でFUNKYサウンドに切り替わるバージョン。
Mr.Heartbreakがはじめて紹介された。
クリスマス・イヴでの神奈川県民ホール。
特別な気持ちで聴く「クリスマス・タイム・イン・ブルー」
そして特別な夜をさらにヒートアップさせる「彼女はデリケート」
THE SUNツアー最終日、
NHKホールで最後に演奏されたのは
「SOMEDAY」
これまでの長い道のり、そしてこれからの長い道のり、
いくつもの高かったり低かったりするハードルを越えて行くために、
この楽曲がいつもそばにあるとは限らないが、
自分にとってかけがえのなかったサウンドであることを
ふと思い出すことがきっとあるだろうし、
これからのあなたやぼくにとってまだまだ
生き続けるサウンドだなとあらためて思う。
アルバム「THE SUN」それは佐野元春が
はじめたDaisy Musicの扉を開いた偉大なるはじまり。
この新たなるはじまりにつづく次のアクションが楽しみです。
きっとまだまだ先は長く険しい。
ぼくはこの先どんな風に巷に流れる音楽と
かかずらわっていけるのか?
それらにどんな思いを抱き、
そしてそれを誰かに返すことができるのだろうか?
衰えるものに怯えながらも、
育つ何かがあることを信じて複雑に
こんがらがったこの世界を歩いて行くことにしてみる。
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