見出し画像

なぜイスラエルは世界一のスタートアップ大国になったのか?イスラエルのヤバすぎる内情とは?

いまだに解決策が見えないまま、過激化しているイスラエル・ハマス戦争ですが、今回は戦争から離れて、経済の視点のみから「中東のシリコンバレー」と呼ばれるイスラエルが一体どうやって70年という短い年月で世界一のスタートアップ大国まで上り詰めたのかをまとめました!よかったら感想とかを教えて下さい!

(同じ内容をYouTubeにも投稿したので、動画で見たい方はぜひこちらから!)

実はスタートアップ大国

四国と同じぐらいの国土と神奈川県と同じぐらいの人口を持っているイスラエルが実はスタートアップ大国だということを知っていますか?イスラエルの国民一人当たりのスタートアップ数投資額は世界一で、NASDAQでの上場企業の数はアメリカ、中国に次いで3番目に多いです。

毎年1000社以上のスタートアップが誕生し、サイバーセキュリティや自動運転、医療機器とかさまざまなハイテク分野で革新的な技術を生み出し、世の中にない技術を求め、300社以上のグローバル企業がイスラエルに研究開発(R&D)の施設を設置しています。2020年のスタートアップ投資額は146億ドルで人口が14倍ほどある日本の2倍以上。

資源もない上、国土の6割が砂漠っていう狭く、しかも常に地政情勢が不安定だったところが、一体なぜ中東のシリコンバレーと呼ばれるほどのスタートアップ大国になったのか、イスラエル経済の70年間の歩み、そしてスタートアップ大国の光と影を一緒に見ていきましょう。

イスラエル建国

1948年、ユダヤ人により念願だったパレスチナの地でイスラエルが建国されます。

イスラエルも建国直後からいきなりバンバン、スタートアップを生み出したわけではありません.4度に及ぶ中東戦争でアメリカのサポートを受けて生き延びたイスラエルは何もかもボロボロでした。

勝ったにも関わらず、四方を敵対国家に囲まれており、何百万人ものユダヤ人難民を受け入れなければいけませんでした。そして、中東に位置しているにも関わらず、天然資源が何もなかったイスラエルはエジプトとかから輸入することで生き延びました。

しかも、80年代半ばまでは社会主義国家のように主な産業とか、経済活動を国が管理し、まったく効率的とは言えませんでした。しかも、度重なる戦争とかで軍事費が国の財政を圧迫して、こうしたことが原因となって、1984年には400%を超えるハイパーインフレが発生しました。

イスラエルがこの金融危機をなんとか生き延びれた理由に西ドイツからの賠償金アメリカからの援助があります。その後、80年代後半に改革を迫られたイスラエルは規制緩和財政の見直し国有企業の民営化金融市場自由化とかの改革を一通り行います。政府の介入をできるだけなくす自由資本主義への転換がイスラエル経済の一つ目の大きなターニングポイントとなりました。それでも同時期に経済が発展していった日本や韓国のようにはならず、かろうじて経済崩壊を回避していた感じでした。

2000年代、ロシア系ユダヤ人が移民

2000年に入って、それまで泣かず飛ばずだったイスラエル経済に、やっと希望の兆しが見え始めました。ソ連崩壊でロシアの方から100万人以上のロシア系ユダヤ人がイスラエルに移住したのです。

イスラエルの人口は20%増加し、この新たに加わった労働力とかによって高成長への入口に立つことができました。また、ロシアから移住した新移民の多くが高度教育を受けた人たちで、3分の1が科学者、エンジニアとかの高度技術を持っている人たちでした。この人たちが後のイスラエルのハイテク産業の発展に大きく貢献することになります。

スタートアップ大国になれたわけ

さて、イスラエル経済がやっと軌道に乗ったところまで見てきましたが、そこからイスラエルがスタートアップ大国になるまでには政府の圧倒的支援がありました。70年代のイスラエルはGDP(国内総生産)の30%を軍事費に費やしていました。その額、なんとソ連の2倍、そしてアメリカの4倍にもなりました。90年代後半以降のイスラエル経済は安定した成長を見せ、社会が安定した分、軍事費を劇的に減らすことができました。浮いた分をどこに使うのかって言ったら、経済成長にとって最も重要な分野である教育、研究への投資です。

優秀なアイデアを持った起業家を支援し、成功した際に新たな投資資金が生まれて、それで、また新しい起業家を支援することができる、そうして産業がさらに発展する。この好循環を回すためには、民間のベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる投資家たちを成長させることが必要でした。

そこで、イスラエル政府は1993年からこんな事を始めます。ヨズマプログラムっていうやつで、投資家が企業に60%の資金を出せば、政府が残りの40%を出し、その企業が成功した場合には投資家が政府の保有部分を安く買い取れるというものでした。

これだけを聞いたら、話がうま過ぎると思いますよね。じゃあ、この政府のお金はどこから来ているのかって言ったら、実際に成功した企業が収める税収から来ています。なので、実は、政府、投資家、企業の全プレーヤーにうまい話だったのです。

こうして、豊富な資金と経営ノウハウを持っているアメリカをはじめとした海外のベンチャーキャピタルをジャンジャン誘致したことで、スタートアップ企業がとことん必要な資金を調達できるエコシステムを作り上げました。

そして、イスラエルがスタートアップ大国になれた二つ目の要素にイスラエル独特の人材育成方法があります。イスラエルでは敵対国との争いが常に絶えなかったので、高校卒業後、男性は3年、女性は2年間の兵役義務があります。なので、イスラエルではたまにビーチとかでライフルを持った人を見かけるそうです。

通常、兵役と聞いて、経済活動とかに遅れを取りそうだなと思うかもしれませんが、イスラエルではこの兵役を逆手にとって、人材育成に役立てている反面もあります。軍では最先端の技術開発に取り組んでいるため、兵役を通じて生まれた技術やノウハウを民間に生かすような取り組みも進めています。

イスラエル人のエリートコースは8200部隊と呼ばれる軍のサイバー諜報を担う部署に入って、最先端の技術に触れたところで、大学行ってグローバル企業へ就職して、3から4年で転職したり、起業する流れが多いです。

そして、イスラエル人がバンバン起業するもう一つの理由に複雑な歴史から生まれた価値観があります。2000年前にローマ帝国によって追い出され、ヨーロッパとかで差別や迫害を受けたユダヤ人は強いサバイバル精神を持っています。CHUTZPAH(フツパ)精神とも言われますが、ヘブライ語で大胆さ、厚かましさ、失敗を恐れないチャレンジ精神という意味があります。そのため、イスラエルの企業はリスクを背負って、ゼロからイチを生み出すことに長けています。そして、人口が少なく、自分のところの経済規模がすごく小さいため、イスラエルのスタートアップは最初からアメリカとか世界を目指さないといけない事情もあります。

こうして、2000年以降、それまでに撒いたいろんな種が成果を見せ始め、今や世界で14番目の一人当たりのGDPと世界一の一人当たりスタートアップ数を誇っています。今までのお話を一通りまとめると、国を挙げたスタートアップ支援で国内外から投資しやすくなるシステムをつくったイスラエルは、世界が羨むような経済モデルを作り、スタートアップ大国として地位を築き上げました。狭い土地に優秀なスタートアップ企業がぎゅっと集まっているような感じなので、投資家たちからすれば、優秀なスタートアップに出会えるチャンスが他のどこよりも圧倒的に高く、効率がいいというところもあります。

イスラエル経済の問題点1:貧富の差

しかし、光あるところに影あり、ということでイスラエルの経済もさまざまな問題を抱えています。イスラエル経済の問題点の一つ目にその物価の高さと貧富の差があります。日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、韓国、とか38の国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)によると、イスラエルがスイスを抑えて、世界で最も物価が高い国だということがわかります。ちなみに、日本は19位で、日本で100円で買えていたものもイスラエルでは150円かかります。

でも、物価がそんなに高いんだったら、それなりにお給料も高いんでしょ、と思ったかもしれません。そこで実際にもらっている給料でどのくらい物を買えるか、つまり購買力の方を見てみると、イスラエルの順位はドーンと下がります。

なぜかって言うと、先ほど言ってたイスラエルの夢のエリートコースに乗れている人は全人口のたった8%しかいないのです。このハイテク企業で働いている8%のエリートたちがそうじゃない業界の約3倍稼いで、イスラエルのGDPを支えているわけです。なので、世界一物価が高い国に住みながら、低い給料で生活している人が全体の92%もいます。

イスラエル経済の問題点2:国内の分裂

そして、この貧富の差以外でも、イスラエルの国のあり方をめぐる対立が深まっています。今回のハマスとの戦争が起こる前、イスラエルでは、政府に反発する人が増加していました。

現イスラエル政権は政府が裁判官の選出に口出しできるようにするだけでなく、裁判の判決を国会が覆せるようにするという改革を推し進めようとしました。すでに汚職問題がある政権が裁判で有罪判決を受けても、国会でそれをナシにできるようにする改革にイスラエルの国民は大反発。毎週のように大規模な反対デモが行われ、イスラエル国内は政治的危機に面していました。

そしてそれだけでなく、イスラエルではずっと、国のあり方をめぐり、ユダヤ教の戒律を厳格に守る「超正統派」と、日常生活を重んじる「世俗派」の対立問題がありました。この対立はずっとあったけど、近年ますます過激になっていて、いわゆる超正統派と言われる人たちは兵役が免除され、大半は就職もせず納税額も低い。なので、兵役をやって、ちゃんと働いて、税金を収める「世俗派」が高い物価に苦闘する中、働かないで税金を払わない「超正統派」の人ばかりが優遇されるのは納得いかないと、世俗派の人たちから政府への不満も高まっています。

超正統派

この超正統派ですが、彼らは信仰上の理由から、出生率が極めて高く、大家族のために貧困層が多い、反対に世俗派は逆に出生率が減少気味です。今現在、イスラエル人口の13%は超正統派ですが、2050年までには人口の4分の1を占めると言われています。宗教もろもろは置いといて、兵役を免除され、働くこともなく、技術発展に必要な科目も勉強しない人たちが総人口の4分の1を占めるのは経済の観点から見たら良いはずないですよね。

市場や経済への影響

こういった問題点をまとめると、中東のシリコンバレーと呼ばれ、スタートアップ大国として羨ましがられたイスラエルも解剖してみると、たくさんの陰りが見えてきます。

イスラエルの経済に最も影響を与えるのはエンジニア、科学者、スタートアップ創業者、そして資金を提供する投資家たちですが、こういった国内の政治的危機や国のあり方をめぐる対立、そして物価高を受けて、人材が流出している動きもあります。

現に、イスラエルのスタートアップ企業の70%がイスラエル国外へ移転する考えがあると話していて、そうすれば、イスラエルが作り上げたスタートアップ大国が崩壊するかもしれません。世界的なインフレと金利の上昇、そしてイスラエルの抱える国内の分裂と地政学リスクの影響で2023年の第1四半期のスタートアップの資金調達額は17億ドル、2018年以降で最も少ない額となりました。今回のハマスとの戦争がなくとも、イスラエルが今日の発展と繁栄を維持するには、たくさんの問題点を解決する必要があることがわかります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?