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「シソンから、」

もうすでに2022年のベスト10冊に入る予感。読み始めて100ページで、高まる〜〜〜〜!となっていた。「シソンから、」チョン・セラン著。

読み終えたのは2月だけどいろいろ考えちゃって感想をうまくまとめられず、今に至ります。

ハワイとアメリカについての内容に沖縄と日本の関係が重なったり、朝鮮戦争と沖縄戦のことが重なったり。そんな沖縄もまた加害者としての側面もある…辛いけどそこも向き合わなければいけないことだと考えたり。

それでもやっぱりチョン・セランさん。
社会や歴史を見る眼差しは真っ直ぐでも、希望を見せてくれる。その希望はひどい現実と地続きだから、ちっともきれいごとじゃない。

シソンの子や孫その家族、登場人物それぞれの視点で進む物語は、読みやすいのに考え事の種をいくつももらえる話だった。ハワイで一度きりの風変わりな祭祀を行うことにした家族の、旅と変化の物語。


小説にぺたぺた付箋を貼りながら読んだのは初めてかも。あまりにも良い〜〜〜という文章がたくさん。

その一部を書きます。大きなネタバレにはならないけど、敏感な方は注意です。 

付箋したところを読み返してみると、ナンジョンの言葉が多い。読書好きで文化が好き、思考することが好きなナンジョンは一番自分と近いのかも。

楽観するために、現在に集中するために、エゴイズムから抜け出すために本ほどいいものはない。

ネガティブを潰すのは没頭と若林さんも言っている。私にとって読書はその最高の手段。


外国語も上手で、悪態も上手につく人だったが、ひょっとしたらその二つは同じ能力だったのかもしれない。

5か国語ペラペラ、そのどの言語でも交渉したり喧嘩ができる友人を思い出した。強く賢く優しく明るい彼女は、海外どこででもやっていけると仲間内で言われていた。

死について考えずにすませるためには読むのがいいと知っていた。死に対抗できる最も手軽な方法は読むことだ。

「楽観するために〜」と通じる。本を読むと思考するけど、思考を止めるためにもまた本を読む。矛盾しているようで両立すること。

「自分が傷つくとしても、決定的な瞬間に他人のために何ができるか? っていう意味に?」

このご時世、読む手を止めて考えてしまう言葉。


「すべてのものはサンゴから生まれ、サンゴは黒いものから生まれる……」

世界の始まりに関するハワイの人々の解釈として出てきた文章。実話なのかな、心惹かれる独特の解釈。


「うん、帝国主義って一種の処理工程だったんだと思う。いつも同じことが起きてるんだもん。うんざりするほど同じ顔なの」

確かに植民地化のプロセスってどこも似ている…。このセリフのあとには、美術館と博物館がもつ帝国主義の側面について会話が続く。学芸員資格をもつ身として持っていたい視点だな。海外の美術館や博物館、遺跡絡みでは感じたことがあるけど、自分の近くにもあるのかもしれない。


「……人が人に塩酸をかけるような世界に、生まれておいでなんてとても言えないですよ」
(中略)
「あんたに産めないなら誰が産める?」
「私より傷ついてない人。私より世の中が辛くない人が。ニュースをさーっと通過できる人が」


この言葉の深刻さを考える。発言者が「男が女に」という言葉を濁して「人が人に」と一般化させたセリフなので、事実に置き換えるとより一層重い。



これだけピックアップすると世の中絶望的……と思われる可能性もありますが、勇気をもらえる場面が何度もあるし、物語を締め括る文章がとても良いのです。この小説を読み切った方の楽しみとして、ここには書かないでおきます。


「苦しいときにはすべて終わりにしてしまいたいと思うけれど、絶望は最も安易な感情だから、そこに陥らず、ずっと続いていく部分に注目したい」と話す著者の言葉に、ひどい世界で絶望しないヒントが隠されていると思う。
(立てないくらいボロボロになってしまった人たちへ言っているわけではなくて、進める人は絶望せずに立ち向かおうという意味で受け取っている)

現実を直視してなお絶望せず、未来を見る強さをチョン・セランさんからは感じます。そんな人生の先輩がいることに励まされています。

別の作品も日本語訳中らしいので、新刊が楽しみ!

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