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女房たちの早蕨 ~サノマ3-17~

「早蕨」と書いて「さわらび」と読む。芽を出したばかりのワラビのことを言う。
早蕨というサブタイトルを持つサノマ3-17(以下3)は、サノマのcollectionの中でも最も軽く、性別や年齢問わず使いやすい香りであり、ダントツに売れている。

もちろんのこと、3はサノマが得意とする相反するものを結びつけるセンスが活かされている。
真ん中にラベンダーを使ったアロマティックノートと言われるハーブ系植物の少し男性的な香りがあり、その周りをフルーティーで愛らしくそして柔らかい女性的な青リンゴ調ムスクが包んでいて、すっとした冷たいイメージにどこか温かさを感じる香りとなっている。

落ち着いていて、懐かしさもありながら、「こういう香り今までになかったよね」と思わせる新規性も確かに秘めている。
ヨーロッパで作られた多くの香水は、雨が続くと香りがこもって気分が悪くなることがあるのだが、この香りは高温多湿な時期でも全く邪魔にならない。迷ったらコレ、という香りである。

この香りについてまず思うのは、その香り立ちの優しさがクリエイター渡辺裕太氏の穏やかで優しい部分を象徴しているということだ。
彼はおそらく気づいていない。ふとしたところに人は彼の優しさを見出していることを。それはいかにも「優しく振る舞ってるでしょ?」というものではない。
実際目にする彼は"優しい"という言葉が持つふんわりしたイメージとは少し違って、芯が強く自由な心を持っているというイメージである。
そう、彼はいつでも自然体なのだ。そしてピュアなのだ。その飾らないピュアな部分が清潔感や爽やかさといった香りの印象に繋がっている。
もちろんそれはこちら側の感受性であって、彼はそんなことどうでもいいと言うかもしれない。

ところで、サノマのcollectionの4種の香りには、源氏物語の巻名にちなんだサブタイトルがあてられている。
源氏物語が書かれた平安時代の女房たちは、絹の袿(うちき)に「襲色目(かさねいろめ)」と呼ばれる2色以上の薄衣を重ねた装束で装いを楽しんでいたという。
重ねることで表地と裏地が透け、重なった部分に新たな色が生まれるという大変風流なものである。その色の組み合わせは季節などを反映している。

さて、何故ここで突飛に襲色目の話がでてくるのか、みなさんはきっと首をかしげていると思う。
私はこの記事にひとつのいたずらを仕掛けた。

多くの場合、「香水」にはたくさんの香料が含まれている。3の香りにも当然何種類もの香料が入っている。
しかしこの記事で私は3で使われている香料の中で最もよく感じられる2種類の香料しか取り上げていない。
ラベンダーと青リンゴ調ムスクである。
それぞれの色を想像して、それからこちらの襲色目の記事を開いてみてほしい。

どうだろう、まさにラベンダーの紫と青りんごの青(当時は緑と青(あを)を混用していた)ではないか。

私はこれを偶然に見つけたのだが、知った時は鳥肌が立った。
まさかと思って渡辺氏に尋ねたところ、創作過程において襲色目はまったく意識していないという。
サノマの香水につけられたサブタイトル、「鈴虫」「胡蝶」「早蕨」「乙女」はそれぞれの香りのインスピレーションソースを暗示するものではあるが、早蕨以外の襲色目は見つからなかった。そして、3-17のそれはあまりにも吻合していて、早蕨以外の呼び名を受け付ける余地がないほどである。

もし早蕨襲を纏った平安時代の女房たちがこの香りを知ったとしたら、冬の寒い朝に春の予感が感じられる希望に満ちた風景を見出してくれるだろうか。
そして現代を生きる私たちは、厳しい季節を超え、この香りに暖かで優しい春の光を確かに見出すことができるだろう。


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