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君はこんなものを仕事にするのか2

取材

その日は朝から変わった電話が多かった。

弊社ではない、全く知らない会社宛に掛けてこられる間違い電話もそうだ。会社間違えてますよ。と言ってもそんなはずは無いと。


そんな電話の一本かと思っていた。


その日は、初夏も過ぎた時期で、日の出は早くなったにせよ、朝から薄暗く、湿った霧が立ち込め、小雨が降っていた。そんな日だった。

私は朝から関連会社にいた。

この会社も私の会社だった。

今となっては、過去形だ。

その頃、この会社で大きな問題が発生していた。

一人の取締役が、朝10分ほど顔を出すだけで、どこかに消える行動を取り始めて数日経っていた。

営業部の責任者でありながら、指導管理を行わずいた。

ただ、自分の担当顧客へのフォローだけはそつなくこなしていた。

そうじゃない。高額な報酬はその為に出していない。

何度か臨時取締役会を開いて、話し合ったが、その時は涙ぐんで、頑張る意思は示すが、何のことはない。

結局何もしない。

私は任期まで、このままにするのか、弁護士を呼んで法的なスタンスで処理すべきか、問題点の整理を始めた。


「社長、お電話です。雑誌の取材をとの事です」


その関連会社に、今、私がいる事を聞き出して電話してきた雑誌社だった。


広告費が必要だという怪しい取材は一切受けない方針だったので、基本的にこのような電話を社員が私に取り次ぐことは今までなかった。

弁護士先生に少し待って頂き、内線を取った。


知らない雑誌だった。


CS JAPAN?


「打ち合わせ中で、時間がないので、申し訳ないですが、取材費が必要なものは一切お断りしておりますので、事前に申し上げておきますが、お話をこのままお聞きしてよろしいですか?」


先に前置きをした。

多くの営業電話はこのフレーズですいませんと、撤退していったものだが、今回は違った。


「実は御社の取り仕切っているイベント会場に以前、取引先から凄い会社があるから行ってみたらと、紹介されまして、客としてこっそり参加させて頂きました。変わってますよね。大変興味が湧きました。取材費は一切必要ありません。何か金銭を頂くことは一切ありません。」

「取材をしたいので、写真の撮影を行いたい。インタビューも行いたい。1時間は頂きたい。」


とても明確だった。ショッピングセンターなどの専門雑誌とのことだった。


「分かりました。では、日程確認は、後ほど、弊社からご連絡致します。宜しくお願い致します。」

私は期待もしていなかった。スタッフに私のスケジュールを確認して、その記者に電話しておいてもらうようお願いをして、打ち合わせに戻った。


弁護士先生との話し合いで、任期満了以降、再任せずと方針を確認し、法的な問題点がないか検証を終えたころ、私はその取材の依頼の話をもう忘れていたくらいだった。


今、思えばあの電話が、弊社の短い歴史の中の、最大のターニングポイントになった。

また、

そして、私がこの日、関連会社でくだした決定が、後々、私を資金繰りで大きく苦しめる事になる。

この時は全て、知る由もなかった。





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