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風日記② シンディとサステナビリティ-Girls Just Want to Have FUNDEMENTAL HUMAN RIGHTS-

シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)が好きだ。

「一番好きなCD/レコードジャケットデザインは?」と聞かれたら、シンディの《She’s So Unusual》と答える。

クールでフレッシュな赤いドレス。左手に花束を握りしめ、シンディがはだしで踊っている。踊っているというか、なにかを振り払っているような。

ビビッドで色合いのこの写真の中で、彼女の表情のトーンは少し違う。とても真剣で、怒っているかのようにも見える。何か、かたくなな信念のようなものを感じてしまう。

この姿の上から、黄色いペンで「あの子は超変わってる」って書かれても、シンディは知らん顔。声が聞こえる気がする。

「うるせえ」

彼女は前進する。

シンディはフェミニストだ。家庭内暴力、性暴力、あらゆる差別。ダサいことにはNOだ。

日本の性差別反対運動にも応援してくれている。#KuToo #MeToo がネット上でかなりアクティブだった時も、シンディもハッシュタグをつけて意思表明をした。

彼女がセクシズムや暴力を被った当事者であるということを知っている人がどれくらいいるだろう。少なくとも私は、彼女の個人史を知ることで、楽曲に込められた主張、政治性をより汲み取れるようになった。

つい先日、1983年発表の大ヒット《Girls Just Want to Have Fun》がYouTubeで再生回数10億回を突破したそうだ。         https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/108120/2        映像: https://youtu.be/PIb6AZdTr-A

ただいま!と元気に朝帰りするシンディに呆れる母親。シンディが夜中に友達に電話しようとすると、父親はそれを阻止しようと怒鳴る。

はいはい、パパは今でも一番だよ、とかなんとか言いながらお説教を華麗にかわし、彼女は構わず家の固定電話機でおしゃべりする。様々な美しさを纏った、世界中の女の子たちとペラペラ話す様子は現代のSNSを想起させる。

「楽しくやりたいだけだからね!」

曲の2番になると、古い映画のワンシーンらしいものが切り出され、女性が恐ろしい表情の男性にさらわれて教会の中へ消えていく。修道士らしき別の男性は傍観している。

対照的に次のシーンでは、シンディと仲間の女性たちはサングラスを順番にかけ、歌う。「太陽の下を歩く人になりたい」。サングラスは外の世界を生きる、自由の象徴だ。光を浴びながら踊る女性たちの列は町中の人々を巻き込み、シンディの家へ到着する。

娘を心配する両親(しかし対話はせず、父親が母親を責める)が生み出す閉鎖的な家庭の空気は打ち破られ、部屋はパーティルームに様変わり。ドアは壊れ、人々が雪崩のように父親の上に覆いかぶさる。踊り続けるシンディ。そして曲はフェードアウトする。

好きにしたいんだもん!くらいのノリではない気がする。シンディの強いステートメントを感じるのだ。

「家にいなさい」「そばにいなさい」「隠れなさい」「隠しなさい」

家父長制が生み出した呪詛をはねのけ、彼女はまっすぐ歌う。

「自由に生きたい、ただそれだけだ」。

では、本当に自由に生きたらどうなるのだろうか?

先日読んだ、ヴィルジニー・デパント(Virginie Despentes)の本の言葉を思い出す。

「そうだ、私たちは家の外にいた。私たちのための場所じゃない場所に。(…)そうだ、私たちはあんな目に遭ったけど、今初めて自分たちがしたことを理解した。パパとママの家では退屈だから、私たちは街に出たのだ。私たちはリスクをとって、その代償を払った」

男性が自由を許され、女性は許されない。

「自由が欲しい?」…ではリスクをとらなくちゃ。

「リスクを冒す権利を、私たちにください」…私たちは誰に、そう頼めばいい?

太陽の下、自由に歩く。人生を楽しもうとする。それをシンプルに選択しようとするとき、様々な他者の言葉や意図が差し向けられる。

最も身近な他者である家族、パートナーから。友人、仕事仲間から。日本でいうなら、「世間」から。良かれと思って悪気なく、愛という名の暴力で縛る。

自由を選ぶ権利を、自分が生きる権利を、他人に許されようとしてはいけない。

《Girls just want to have fun(demental human rights).》「女の子は基本的人権がほしいだけ」そんなふうに文字って、本のタイトルやTシャツにプリントされ、ネットでも拡散されているらしい。うまい。うまいって言えてしまう現実が悲しい。

「私たち、女性は笑っているだろうか?」

現実には、アルバムジャケットのシンディのように、口をつぐみ踊っている。必死に戦っている。

世界はウィメンズマーチをしている。そしてシンディは先頭に立ってくれている。

彼女の曲を聴けば、シスターフッドを思い出すことができる。

だから女の子たちよ、人生を闊歩せよ。

つづく

《参考》
Cyndi Lauper “Girls Just Want to Have Fun”(アルバムShe’s So Unusual より)
ヴィルジニー・デパント『キングコング・セオリー』相川千尋・訳、柏書房

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