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持続可能なアルゼンチンタンゴ② 自己受容と他者受容

アルゼンチンタンゴに出会って人生が180度変わった筆者なーが、Diversity(多様性)・Inclusion(受容)に繋がりそうな、タンゴのエッセンスを紹介します。GPSSグループの社長は「皆がタンゴを踊れば世界は平和になる」と時々言っていますが、私もまぁまぁ信じています。


特徴①2人でひとつ


タンゴは2人で踊るペアダンスで、一方がリードし他方がフォローするのが基本だ。リードの基本は重心移動、初心者のうちは2人で一緒に歩くことを練習する。少し動けるようになると、自分は移動せずに相手だけ移動させる又はその逆、体幹の捻りを利用して直線運動を回転運動へ変換する、それぞれの重心を回転軸からずらして遠心力を利用して、、、、と徐々に動きのバリエーションが増えてくる。リーダーが動くとフォロワーが動く、そのエネルギーを次のリードに繋げて、2人の間でエネルギーを循環させる。2人分の体重で動くときに感じる、ぬるっとした加速と減速は、力学実験のようにも思える。


特徴②即興性


タンゴでは一般に振付が決まっておらず、音に合わせて自由に動くことができる。足型のルールもほとんど無いので、その場で新しいステップが生まれ続ける。特にリーダーである男性はあらゆる音楽に合わせるために、または女性に(踊り相手として)モテるために、ステップを日々研究している。ちなみに男性がリードし女性がフォローするのが一般的だが、反転しても、同性同士でも特に問題はない。性志向・性自認とダンスパートナーの性別は必ずしも直結しない。リーダーもフォロワーも、相手を楽しませる人がフロアの人気者になる。


特徴③一期一会


多くのタンゴ愛好家が目指すのは、「ミロンガ Milonga」と呼ばれるタンゴのダンスパーティだ。会場はクラブ、レストラン、ダンススタジオなど様々で、DJがタンゴ曲をかける中、踊りたい相手に目配せし、数曲一緒に踊る。ダンスフロアを囲むように座席が配置され、ワインやビールを飲みながら世間話をしたり、他人の踊りを眺めたり、時にはバンドの生演奏を楽しむ。そしてまた他の相手を誘い数曲踊り、談笑して、また踊り、、、と、パートナーを固定せずに複数の相手と踊る。人口100万人を超える世界の都市には大抵ミロンガが存在し、旅先でフラリと踊りに出かければ必ず歓迎される。今やアルゼンチンタンゴは5大陸全てに広まり、世界宗教の分布範囲を優に超えている。


自己受容と他者受容について


タンゴは2人で1体の生き物のように動き、ステップは即興で、国籍や人種を超えた出会いがある。だからこそ、自分が自分であるということにとんでもなく価値がある。ダンスと聞いて「私は運動神経が悪いから、スタイルが悪いから」と敬遠する人がいるのだけれど、タンゴはペアダンスなので、人間の多様性はそのままダンスの多様性になる。身長、体重、柔軟性などの身体特性だけでなく、音の取り方や性格もダンスの入力値となるので、出力が常に変化するし、同じペアで踊ってもその日その場所によって違うものができる。

タンゴには、8頭身の美男美女がしなやかに踊る・・・みたいな正解は存在しない。体重100kg超えの名手もいる。そもそもアルゼンチンが移民国家なので、人種がバラバラなのは当たり前。年齢も多様で20代と80代の他人同士が一緒に踊っている姿も珍しくない。むしろ他人と違うところが魅力になるので、足が短いから重心が低くて安定する、太っているから抱き合ったときに一体感がある、という具合に、なんでも長所になってしまう。内面も同じく、性格・性質・趣味趣向の違いが踊りに現れるので、他人をコピーする必要がないし、不可能だ。


Diversity, Inclusion, and Tango?


タンゴを踊ることで自分自身の価値を確認できるし、他者と自分がどうしようもなく異なっていること、どうしようもなく異質な2人がシンクロすることを感じられる。
個人的にはタンゴを始めたことで、自分ではない何者かになろうとしたり、自分自身を否定することがなくなった。他者が自分とは違うことに滅法腹が立つのも、反対に愛おしくなるのも、タンゴを始めたせいだ。だから自分にとってのタンゴはダンスや芸術の枠に納まらず、人生における価値観を根こそぎ変える、行動指針とか哲学みたいなものに近いのかもしれない。


さいごに


私は常々、タンゴの認知度がもっと上がって、気軽に始める人が増えてほしいなぁと思っています。だから今回もタンゴの面白さを伝えるために、ついでにGPSSグループの理念なんかに繋げるべく、こんなテーマで書いてみました。オンラインタンゴマガジン「明日のタンゴ」で、日本人が親しみを持てるような記事を上げているので、そちらもチェックしてみてください。




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