階調する日々

街が夜に包まれる時間
外の階段を
冷たい空気を浴びながら降りた
踊り場に小さな喫煙所があって
その目の前から
数個の星と月を眺めてみた

綺麗とは程遠い暗い街中と
なんてことない景色に
ほっとした

微かなタバコの香り
冬の三日月
2.5階の私


“歩き慣れてない夜道を
ふらりと歩きたくなって
蛍光灯に照らされたら
ここだけ無理してるみたいだ”

あの人と歩いていた道を一人で歩く
暗くても寒くても
一人じゃなかったから
何も怖くなかった

この人がいるから大丈夫だって
安心してた
手が温かくて
二人笑顔で歩いて
それにずっと
優しい人だった

ひとりになったら街の蛍光灯に
無理に明るくされてるみたいで
嫌だった
ひとりでも大丈夫
もっと暗くても一人で歩ける
これが私なんだ
と強がる日々もあった

今だって
寒いねって
手を繋いで一緒に歩く相手はいないけど
たぶんあの街灯は見守ってくれているはず
無理をしていない強がっていない
ほんのちょっとだけ強くなった私を
照らしてくれているでしょ?


“あなたのくれた言葉正しくて色褪せない
でももういらない”

俺が運転するから
免許取らなくても大丈夫だよ

その言葉
私は正しいと思ってた
事故を起こしたら嫌だなとか
彼の運転が好きだなとか
そう考えて不要だと思っていた
たぶん助手席に座る彼女である
自分に安心してそれも好きの一つだった

別れた半年後
免許を取った

全部自分のため

好きな曲をかけて
恋人だった人
友達家族を乗せた
県を跨いで
高速道路も運転した
全部私が選んだこと

ハンドルを持ちながら見た景色
あの人がいない隣
私が手に入れたもの
もう会うことのない
あなたの知らない私だよ

もしすれ違う日が来ても気づかないで
何も考えずに振り向いて

都会の空気に徐々に染まっていく私を
残念がっていたけれど
私はあの人のいる場所に留まり続けて
安心しきってしまうことは怖かった
誰が隣にいようと関係なく
私はずっといろんな面で変わりたい
そう思い続けてきた
それは今も変わらない

流行が発信されていく場所
ファッショナブルな人々
何もかも全部覆されるような立地に通い
刺激的な空間がそこら中にあった
その4年間でいろんなことが変化した

成長の変化に染まりきれていなかったとしても
彼の目に何かしらの変化が映っていたとしたら
それは本望

もう窮屈なものに自分が
染まらずに生きていけますように

あの人がくれた大丈夫はもういらない
これからもずっと

今 
一人じゃないと思える時に
頭の中で浮かぶのは
私に沢山の優しさをくれる人
楽しさや面白さを共有してくれる人
愛をくれる人たちの存在
魅力ある人がもっといて
その魅力を感じる度に
私の活力になっている
一人で大丈夫な瞬間をかき集めて
 嬉し涙を流せるような日々に
私は染め上げられている
そうやって一人だけど
独りじゃない時間を積み重ねている


喫煙所のコミュニティもあるからさ
と言い訳のようなことを放ちながら
吸ってたタバコ
今となってはダサいなと思える
あの思い出たちがもう煙でくすんでしまった
あなたの顔も灰色にぼやけて思い出せない


チャットモンチー
『染まるよ』

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