【代表理事インタビュー①】 日下光 が考える「Govtech」 〜新たな公共サービスの形を目指す〜
近年、デジタル技術は社会のさまざまな分野に変化をもたらしています。金融分野における「Fintech」、健康・医療分野の「HealthTech」などがその代表例ですが、その波は公共行政の分野にも及んでいます。
今回は公共行政におけるデジタル技術の「Govtech」について一般社団法人Govtech協会代表理事の日下光に、Govtechがもたらす社会への意義とその普及の難しさについてインタビューしました。
(取材日:2024年9月25日)
(文責:Govtech協会事務局)
一般社団法人Govtech協会の名前でもある「Govtech」とはなんでしょうか?
Govtechは、公共行政(Government)分野におけるデジタルテクノロジー(Technology)の活用を指す造語です。金融におけるFintechや医療・健康におけるHealthTech、という考え方をすると分かりやすいかもしれません。
基本的には、公共行政でデジタル技術を活用すると言う意味なんですが、私はもう少し広く捉える必要があると思っています。
単に行政に関わる人たちがデジタル技術を使う、行政サービスがデジタル化するに止まるのではなく、行政自体を再定義して、民間セクターと連携して新しいサービスを作っていくべきだと考えています。
これまで、公共行政は窓口での手続きが基本だったと思います。しかし、現在のデジタル社会に至っては、公共サービスや社会インフラの考え方や仕組み自体を新たに考え直し、再構築することが、Govtechの本質だと思っています。これにより、私たちの税金で提供する公共サービスに加えて、民間のビジネスモデルも取り入れて、新しい価値を生み出すことができるのだと考えています。
日下さんが、このGovtechに関わるきっかけはなんだったんでしょうか?
2012年にxID株式会社(クロスアイディ)を立ち上げ、2020年にはマイナンバーカードを活用したデジタルIDのアプリケーションとインフラを提供するようになったことがきっかけです。つまり、私自身がGovtechスタートアップを経営している立場でもあります。
私は2020年ごろまで、エストニアに3〜4年ほど住んでいました。
ご存知の人も多いと思いますが、エストニアはデジタル社会の実現においては最先端の国の1つになっています。国民の99%がデジタルIDを活用しており、行政サービスも含めて社会インフラのデジタル化が著しく進んでいます。
エストニア政府のデジタルIDに関連する仕事にも携わる過程で、官民の境界が曖昧で、民間が提供するサービスも簡単に行政に取り込まれているということに気づきました。
このような体験を通じて、『マイナンバーカードに関連するGovtechスタートアップを立ち上げるべきだ』と考えるようになったのです。事業を行う中で、自分たちだけでは解決できない課題がたくさんあることに気づき、同時に多くのGovtech関連企業もまた、同じような悩みを持っていることを知りました。そこで、業界全体の課題解決を目指してGovtech協会を立ち上げました。
FintechやHealthTechはすでに広く知られていますが、Govtechという言葉がまだ普及していない理由は何だと思いますか?
FintechやHealthTechと比べると、Govtechは産業として捉えられていない、というのが大きな理由だと思います。
実はGovtechという言葉自体は新しいものではありません。日本では、2013年ごろから経済産業省が「Govtechカンファレンス」を行っていますし、2021年にデジタル庁ができてから「Govtech Meetup」を開催するなど約10年前から、Govtech分野を盛り上げようとさまざまな取り組みが行われてきました。
しかし、FintechやWeb3の世界では、スタートアップが大きなビジネスチャンスを見出し、IPOを目指す動きがあるのに対し、Govtechの環境は大きく異なります。
日本のGovtech市場は金融など他の市場に比べると非常に小さく、その中でGovtechスタートアップを立ち上げることは、利益を追求するというよりも社会課題の解決を目的とすることが多いです。
さらに、公共分野は『公金を扱う』というイメージがあり、民間のビジネスチャンスとしては魅力に欠ける部分があります。同業のGovtech経営者との話の中でも、起業の理由としては社会課題の解決や社会貢献がきっかけであることがほとんどです。このような背景があり、Govtech分野にはまだプレイヤーが少ないのが現状です。
また、社会貢献を第一に考える人が多く、業界が同質性の高いものになっていることも、普及の妨げになっていると考えています。結局、利益を出すという考え方が少ないため、他の分野のような盛り上がりが生まれにくいのかもしれません。
もっとライトに関わりたい人や、ビジネスとして成功させたい人たちが入ってこないと、層が厚くならないし、広く普及することも難しいのが現状です。
【代表理事インタビュー②】では、一般社団法人Govtech協会が取り組む課題や活動について伺います。(掲載予定日:2024年10月22日)
また、今後は自治体の皆様へのインタビュー記事も公開予定です。ぜひご覧いただき、評価や「いいね!」をお願いします!
Govtech協会事務局
info@govtech-japan.org
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