雑談

コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/11/21)

役員報酬返還、日本企業もじわり 巨額損失や不正時

【注目ポイント】企業不祥事や重大な経営危機を引き起こした際に、経営者に対して既に支払った役員報酬を会社に返還させる「クローバック条項」を導入する日本企業が増えている。日本経済新聞社の「社長100人アンケート」では、14.5%が導入済みで、「今後検討する」も含めると計3割が導入に前向きな意向を示しているとのこと。クローバック条項は、M&A等の投資に伴う巨額損失や大幅な業績下方修正、不祥事などが発生した際、業績連動報酬などすでに支給済みの報酬を会社に強制返還させる仕組みであり、欧米企業では比較的導入数が多い。特に、リーマン・ショック以降、金融業界の企業を中心に広がっており、アップルやコカ・コーラ等が導入している。日本では野村ホールディングスや三井住友フィナンシャルグループがすでに導入しているなど、大企業を中心に今後その数が増加する見込み。

【コメント】クローバック条項は、欧米各国の企業はほとんどの企業で既に導入している。記事にもあるように、経営者の過度な短期志向や過剰な投資への抑止力として機能させることが狙いだ。そう考えてみると、抑止力として機能するためには、それ相応の痛みを伴わないといけない。米国企業のCEO報酬は10億円を超えることも珍しくなく、そのうち9割以上が株式報酬であることから、いざとなれば数億円単位の報酬返還を求められることになり、これは大きな抑止力として機能するだろう。一方で、日本企業のCEO報酬の平均は、いまだ1億円に届いておらず、しかも株式を含む業績連動報酬の割合は全体の半分以下、つまりクローバックを導入したとしてもせいぜい数千万円程度の痛みしか伴わない。この程度で果たして抑止力として機能するか?というのが、素朴な疑問であり、導入している企業も単に株主に対してパフォーマンスとしてクローバックを導入するのではなく、経営者が過剰なリスクテイクを行わないような仕組みとして機能するかどうかという観点で検討すべきである。


ISS、3分の1以上の独立社外取を要求 上場子会社に

【注目ポイント】議決権行使助言会社大手のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は、上場子会社に対して、2020年2月から取締役のうち3分の1以上を独立社外取締役が占めることを求める。上場子会社の少数株主の利益保護を強化することが目的であり、今後グループ内に上場子会社が存在する企業に対するコーポレートガバナンス改革につながりそうだ。東証上場企業のうち親会社を持つ企業は約370社存在する。これらの企業の株主総会では、来年以降ISSの新基準を満たさない選任議案への反対票が増える可能性がある。

【コメント】先般のヤフー・アスクルのグループ企業内のコーポレートガバナンス不全の余波が、記事にあるISSの議決権行使基準の厳格化や日立等の親子上場解消への動きに繋がっているとみえる。先日は、東芝もグループ内上場子会社4社のうち3社を完全子会社化すると発表したが、今後同じように親子上場の解消が他企業でも行われることは間違いないだろう。


旧「村上ファンド」の常勝アクティビストが足をすくわれた理由

【注目ポイント】商船大手の川崎汽船が、今年6月の定時株主総会で筆頭株主のアクティビスト、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントから社外取締役のを受け入れが決まった。株主総会で川崎汽船の明珍幸一社長は、受け入れの理由を「事業投資やガバナンスに関する知見を持っており、有益なアドバイスをもらえる」としていたが、実態としてはエフィッシモの要求を受け入れざるをえない状況に追い込まれたとみられている。

【コメント】エフィッシモは2016年から川崎汽船株を30%超保有しており、それ以来経営陣と激しいやり取りを水面下で行ってきたと考えられる。エフィッシモ自体、旧村上ファンド系のアクティビストではあるが、全盛期の村上ファンドが株式取得からリターンを確定するためのExitまで比較的短期間で行っていたのに対し、今回は4年以上の年月をかけて取り組んできたことに、ファンドとしてのスタンスの違いを強く感じる。今後エフィッシモが川崎汽船の取締役会に入ったことで、どのように同社の経営が変化するかは要注目である。


ソニー、東芝、JR九州、オリンパス…実録「欧米アクティビストvs日本企業」

【注目ポイント】オリンパスは今年6月の株主総会で、アクティビストのバリューアクト・キャピタル・マネジメントからパートナーのロバート・ヘイル氏と、元アドバイザーのジム・ビーズリー氏を新たな取締役として選任した。オリンパスの竹内康雄社長は、「会社が今、本当に企業変革をしなければならない中で、非常に有用なアドバイスをもらっている。一言で言えば、とても助かっている」とバリューアクトからの取締役を評している

【コメント】2019年の日本企業のコーポレートガバナンスにおける画期的な動きの一つは、このオリンパスのバリューアクトからの取締役受け入れである。アクティビストを自ら取締役会に受け入れ、積極的に支援を求める姿勢は他の日本企業に大きな驚きを示すと同時に、今後日本企業でも同様の事案が増えることを感じさせる出来事であった。敵対的関係から脱し、いち早く有力な経営パートナーとして捉える、このようなアクティビストとの新たな関係構築がどのように経営に変化を与えるかが注目だ。

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