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障がい者にやさしい街づくりをめざして 株式会社Lean on Me代表取締役社長 志村駿介氏インタビュー<前編>

今回私は、株式会社Lean on Me(本社:大阪府高槻市 https://leanonme.co.jp/ )に伺い、代表取締役社長、志村駿介氏に取材させていただきました。この記事では、現在当社が提供している、障がい者支援に携わる方々向けのeラーニングサービス『Special Learning』や、創業以来の志村氏の想いをご紹介したいと思います。(この記事では、前編「Lean on Meが取り組んでいること」をご紹介いたします。)

Special Learningとは? 

――現在御社が開発・提供されている「Special Learning」とはどのようなサービスなのでしょうか?

 Special Learningとは、障がい福祉に特化したeラーニング研修で、主に障がい福祉サービス事業所と呼ばれる障がい者施設で働いている職員の方に向けたサービスです。
 特別支援学校を卒業された方のうち、およそ3割の方が就職し、7割の方は、障がい福祉サービス事業所に行くことになります。障がい福祉サービス事業所は全国に13万事業所有り、約100万人以上の方が働いているのですが、そこでは虐待や事故の発生など、不適切な支援が行われている実態も現に存在します。非常勤職員の方にも受講していただけるSpecial Learningは、そういった問題を解決するためにも、役立つものになっています。

――障がい者支援施設で働く職員様への研修として、Special Learningならではの良さ・工夫されている点を教えていただけますでしょうか?

 工夫している点は、研修動画を1つのテーマ当たり3分程度と短くし、専門家の知見を取り入れたことです。職員の皆様はスキマ時間に自分にとって必要なタイトルを選び、効率的に研修を受けることができます。
 また、私自身、障がい者支援施設で働いていた経験があり、現場で必要な知識についても少なからず理解しておりますので、現場で活きるコンテンツを多く揃えている点も特徴かと思います。
 さらに、知的障がいのある方に動画に出演してもらっていることも、大きな特徴だと思います。知的障がいのある方への接し方について、言葉での研修のみでは障がいのあるご本人の雰囲気などを学ぶことができず、不十分なところが多いのですが、実際に知的障がいのある方が出演している映像があることによって、仕草や雰囲気などをリアルに感じることができるのではないかと思います。ご本人に動画に出演いただくことは、(ご本人に出演料をお支払いするので)障がいのある方の経済的自立や、社会の一員として働くことにもつながっているんです。

――実際にSpecial Learningを利用されている障がい者支援施設で働く職員様からは、どのようなご感想をいただいていますか?

 高齢者施設から障がい者施設に移ったという非常勤職員の方からは、「これまで障がい者支援についての研修を受けることがなく(*現状として常勤の一部の職員が外部の研修に参加する形となっており、常勤職員の一部や、非常勤職員は研修を受けていない状態であることも多い)、現場で手探りで働くことに不安を感じていたが、Special Learningを視聴することによって、自分の支援の指針を持つことができ、安心して支援ができるようになった」という声をいただきました。
 また、職員の方に向けたアンケート結果では、「自身の支援の際の言動・行動が、虐待に当たるものではないか?という意識を常に持って、支援にあたることができるようになった」との声を、8割もの方からいただくことができ、価値のあるサービスを提供できていると感じました。

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(Special Learningのコンテンツ一例)

――Special Learning発案のきっかけを教えていただけますでしょうか?

 以前、ある寿司チェーンで働いていたのですが、その会社では、業務マニュアルがきちんと作られていました。一方で、その後勤務した障がい者支援施設には一切マニュアルが無く、その点に問題意識を持ったことがマニュアル作成の構想が浮かんだきっかけです。また、私が働いていた寿司チェーンではeラーニングシステムの配信も行っていたこともあり、マニュアルをeラーニングで配信するというアイデアが浮かんだのだと思います。

――Special Learningの事業開始前に、アメリカのオレゴン州で障がい者支援について学ばれたことがあるとお聞きしました。

 eラーニングシステムの作り方は自学でなんとか学べたのですが、いざコンテンツを作るとなったときに、支援の面では経験の浅い自分がどのような内容を盛り込んでいけばよいかが分かりませんでした。そんな時、海外の方が障がい者支援が進んでいるという話を耳にし、SNSを通して海外の障がい者支援について学ぶようになりました。そこでオレゴン州で障がい者支援に携わっている方と知り合い、オレゴン州に行くことになりました。
 オレゴン州では、行政が障がい者支援向けの研修マニュアルを作成しており、働く前の職員用、働き始めて1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後の職員用、というように、体系的にマニュアルが用意されていました。それをヒントに、どのようなテーマでコンテンツを作ればよいのかという構想を練りました。ただ、日本の制度や法律には詳しくなかったので、日本の有識者の方にもお話を聞きつつコンテンツ制作を進め、Special Learningの基盤ができあがりました。

――アメリカ(特にオレゴン州)と日本とで、障がい者支援についての認識の違いを感じる部分はありましたか?

 もちろん、海外にも障がい者差別は存在するのですが、差別に遭ったときに家族が訴訟をするなどの行動に出ることがあたりまえの社会なので、現在では表立った差別はあまり存在せず、障がいのある方と共存するという意識ができつつあると思います。学校でも、通常学級の中で障がいのある生徒が生活しており、横についたヘルパーさんが、他の生徒に「この子は〜という特性があるから、…という部分に配慮してあげてね」という声かけをすることもあります。一方で日本は、未だに障がい者を隠すような風潮があり、また、教育面でも特別支援学校・養護学級を設けることが普通で、障がいのある生徒を完全に分離する傾向が強く、共存という点からはまだまだ遠いように思います。
 また、障がい福祉関係なく、一般の方の障がいのある方に対する認識も異なっています。私がオレゴン州でダウン症の方とトレーニングジムを訪れた際、入館のために暗証番号の入力が必要だったのですが、ダウン症の方が暗証番号の入力に何度か失敗しても、ジムのスタッフさんはヒントを与えながら、最終的に入力が成功するように促していました。日本であれば、入力方法が分からないだろうから暗証番号の入力をジムのスタッフさんが代わりに行う、という流れになりがちだと思うのですが、オレゴン州では障がい者から失敗の経験を奪わず、成長の機会を与えていくということを一般人の方がごく普通に行っていたので、とても驚きました。

インクルTechとは?

――御社では「インクルTech」という言葉を最近よく使われていますが、この言葉の意味や、込められた想いについて教えていただけますでしょうか?

「インクルTech」とは、インクルージョン(Inclusion、包含・包摂の意味)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。この言葉は、SDGsに関心が高まる今、ソーシャルな課題の中でも、多様性の包摂を実現するテクノロジーを意味しています。
 まず、インクルージョンという言葉は、障がいのある方へのコミュニケーションや接し方について伝えていくことにより、障がいのある人もない人も融和した社会を作っていければ良いな、という想いから用いています。
 また、今後テクノロジーがさらに発展していけば、障がいそのものが補完されていくと思います。例えば、身体障がいを持つ方が義足を用いて歩くことができるようになるのと同様に、知的障がいがある方に、ここの道路は危ない、などの情報をARで教えてくれるような技術が生まれたら、家族やヘルパーさんがいなくても、テクノロジーの力で障がいのある方が一人で街を歩けるようになると思います。「インクルTech」という言葉には、テクノロジーの力で障がい者の自立を図り、障がいのある人もない人も融和した社会を作っていこう、という想いが込められています。

LeanonMe志村社長お写真


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