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5Gネットワークの最適化に挑む。株式会社ポコアポコネットワークス 代表取締役 武部秀治氏、技術担当取締役 井上一成氏インタビュー<前編>

今回私は、株式会社ポコアポコネットワークス(本社:大阪府大阪市 https://www.poco-apoconw.com)に伺い、代表取締役 武部秀治氏、技術担当取締役 井上一成氏に取材させていただきました。この記事では、当社のAI技術の概要や当社ならではの強み、エッジAI技術を活用し、実用化に向けて開発に取り組んでいるプロジェクト、当社が今後注力したいと考えている領域について、ご紹介したいと思います。

当社の持つ技術の概要

――御社技術の概要について教えて下さい。

我々が持つ技術は、AIをエッジ(端末機器)に搭載できるようにする技術です。

――従来の技術ではAIをエッジに搭載できないのでしょうか?

 こちらにお答えする為に、まずは、AIについて説明する必要がありますね。AIは、コンピュータに人間の思考を再現させる試みです。そのため、人間の脳神経を模倣した「ニューラルネットワーク」を構成して、多量のデータを学習させることにより、画像から人間、自動車を検出する等正に人間と同等の認識を実現します。この学習あるいは学習済みのニューラルネットワークが学習結果に基づく推論(人間が行う認識)を実行する際に、膨大な計算が必要になります。
 このようなAIの計算に適したチップとして、nVIDIA社製のGPUが有ります。GPUは当初、ゲームの画像・動画を描画する専用チップであったものの、描画とニューラルネットワークの計算が同じ方法(積和演算)であったことからAIのキーデバイスとなっています。ただGPUは消費電力が大きいのです。なぜなら、回路規模が大きくなる「積和演算」を用いますし、その上、「重み」と呼ばれるニューラルネットワーク計算のパラメータを外部のDRAM(Dynamic RAMと呼ばれる半導体メモリの一種)に記録し、DRAMとGPUの間でデータのやり取りを高速で行っているためです。このため電気自動車やドローンといった、「バッテリーで駆動され消費電力の抑制が重要な製品」には搭載が難しいという指摘が有るのです。
これらをまとめると、エッジでの計算を、AIの計算に適したチップであるGPUを用いて行う場合、AIの搭載が難しくなるケースがある、というお答えになりますね。

――御社の技術では、どのようにしてAIをエッジに搭載するのでしょうか?

先ほど、エッジでのAI計算をGPUで行うと電力消費が多くなるため、AIの搭載が難しくなるケースがあるとお話しましたよね。
我々は、ニューラルネットワークを小型化して計算量を大幅に削減するため計算に使用するパラメータのビット数を小さくする量子化、影響が小さいニューラルネットワークの枝を削除するプルーニング(枝刈り)、ニューラルネットワークの構造の最適化等多様な技術を活用して、GPUより低消費電力化できる小型なマイコンやFPGAによるAI計算を可能にしたわけです。
 これによって、どのようなエッジであっても、AIを搭載できるようになったんです。

――御社のエッジAIが現在活用されている事例・今後活用が期待される用途について教えて下さい。

現在活用されている事例としては、ドローンで農産物の育成状況を把握する、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の助成金により開発したバイタルセンサーで個人の健康状態を把握する、といったものがあります。
また、今後活用が期待される用途としては、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)の助成金で開発してる可搬式のローカル5G基地局に我々のAIを搭載し、その基地局の消費電力を最適化するといったものがありますね。

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――「5G」というワードは最近よく聞くのですが、「可搬式ローカル5G基地局」とは具体的にどのようなものでしょうか?

 順を追って説明しますね。
まず「ローカル5G基地局」とは、次世代のモバイル通信ネットワークを構築する基地局です。今後増加すると考えられる、イベントドリブン型のサービス(MaaS等)を安定稼働させる為に必要となってきます。この基地局により、高速で高品質な通信が可能となります。
今後普及が進むローカル5Gサービスを「いつでもどこでも」享受するためには、可搬式で必要な場所に、必要な時に設置できる「可搬式ローカル5G基地局」が最適です。また、災害発生時に避難者のモバイル通信手段を確保する、被災状況をドローンでモニターする場合等でも活躍できると考えます。しかし、ローカル5G基地局を場所を問わず設置するためには、基地局を商用電源がなくてもバッテリーだけで稼働できるように、その消費電力を大幅に削減することが求められています。

「可搬式ローカル5G基地局」は、我々が開発に取り組んでいるシステムの供給エネルギーと消費エネルギーを予測し、最適なエネルギー管理下でシステム性能を最大限に発揮させる小型省電力エッジAIにより「ノーマリーオフコンピューティング」を制御することで、モバイル通信需要が少ない時間帯の電力消費を大幅に削減するなどモバイル通信需要に応じたシステムの稼働制御で実現します。具体的には、基地局全体としての消費電力を、従来の1/10に削減することを目指しています。消費電力を大幅に削減することで、商用電源無しで太陽光発電だけで稼働できるのですが、これは基地局の可搬化の為に必要な仕組みです。

――「ノーマリーオフコンピューティング」とはどのような技術でしょうか?

例えば、スマートフォンは高い性能を持ち、消費電力も大きいですが、1-2日ほどは充電しなくても使うことができるじゃないですか。これは、搭載しているSoC(System On Chip)と言う大規模な回路を内蔵する半導体において、「ノーマリーオフコンピューティング」という、使っていない部分の電源を切って、コンピュータの消費電力を抑える技術を活用している為です。我々は、この技術を可搬式ローカル5G基地局でも活用しようと考えているわけです。この技術を研究されている東大の先生と共に、現在プロジェクトを進めています。

ポコアポコネットワークスならではの技術的優位性

――様々な領域で活用され、さらに、実用化に向けた開発が進められているローカル5G基地局の要素技術としても採用されている御社の技術ですが、代替手段や競合他社と比較した際の優位性はどのような点が有りますでしょうか?

我々の技術の優位性は、ハードウェア技術/AI(ソフトウェア)技術/ネットワーク技術を統合した際の「システムとしての最適化度合いの高さ」に帰結するんじゃないですかね。
エッジAIやノーマリーオフコンピューティングといった技術は従来から存在し、我々の他にも開発に取り組んでいる企業さんは多数おられると思います。しかし、これらの技術を、さまざまな領域のハードウェアと最適統合することができるのは、ハードウェア(半導体・ネットワーク)技術の研究開発に深く携わってきたメンバーを多数抱える(後述)我々ならではかな、と思いますね。

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