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黒魔術のキメラたち

31歳になった。

別にメッセージがたくさんほしいというわけではないのだけれど、日付が変わった瞬間に1件ぐらいはラインを送ってくれる人がいるだろうと思っていた。

しかしまさかのリアル0件。さすがに少し寂しい気持ちになりつつアレンジの仕事を進めている自分に「やることやって偉いぞ」とセルフエールを贈った。

朝になるとラインは相変わらずだったものの数件来ていて、ツイッターでファンの方からもたくさんメッセージをいただいて温かい気持ちになり修羅の道に踏み込まずに済んだ。

あらためてメッセージをくれたみなさんありがとうございます。僕自身や作品を好きになってくれるみなさんが素直な心で過ごしていけるように1年間精進していきます。

人に勇気を与えるにはまず自分が行動するべきだから、ではなくただ痛みが限界に達したので仕方なく、という幕末の人斬り抜刀斎 緋村剣心のごとくここまでのいい流れをぶった切る理由でバースデー歯医者に行くことになった。

虫歯はかなり進行していて神経を抜くことになったが、今無事帰ってきてこれを書いている。


先日検診をしたときに通された部屋はかわいい歯のぬいぐるみがちょこんと置いてあった。歯医者の恐怖を前にしてはそのぬいぐるみでさえ笑顔で僕の痛みをほじくり返すサイコパス野郎に見えてきたのだけれど、今日通された部屋には木彫りの動物たちが並んでいた。

ウサギ、シマウマ、ライオン、ゾウ、チーター、キリン、どれも人間のような胴体がついており棚に腰掛けていた。これからの恐怖を紛らわそうと謎に脳内で動物たちに話しかけようとして顔を見たらみんな全然笑っていないのだ。真顔も真顔。むしろ険しくどこかを睨みつけている。

なぜこんな表情の人形をこんなところに並べているんだと思っているとおかしなことに気がついた。ウサギ、シマウマ、ライオン、ゾウ、チーター、ここまでは人間のような体と手足がついていてもまあ許容できる。

しかしキリンよ、お前はどうしてしまったのだ。人間のような体つきになってしまって首がまったく長くない。四足歩行になったところを想像して奇妙な気持ちになった。

そうか、こいつらは黒魔術によってキメラに変えられてしまった動物たちで、ここで人間たちが苦しむ姿を見て恨みを解消しようとしているのだ。などとよく分からない妄想にたどり着いてしまった。

そんなこんなしているうちに治療がはじまった。神経を抜くということで麻酔をしてもらう。いつもそうなのだけど僕は麻酔をするときに絶対気分が悪くなってします。精神的なものだとしたら本当にメンタルが弱い。怖がりすぎである。

しょっぱなからビクビクしながらもしっかりと感覚はなくなり、いよいよ本格的に治療がはじまった。

キイイイイイイイン! はい!降参!ギブアップ!もう音だけで十分です。なおりました。ごめんなさい。そんな心の叫びも虚しく歯は削り取られていく。

こういう時は素数を数えるといいというので、これからの活動について考えて気をそらすことにしキイイイイイイイン!無理でしたごめんなさい。この拷問のような音の中、集中できるはずもなく強制的に観念することになった。

痛かったら左手を上げてくださいね。とお決まりのセリフにどうせ我慢してくださいって言われるんだろうなと思ったり、全然痛くないのに試しに手をあげてみようかというよく分からない好奇心が働いたりもしたが、無事ちゃんと痛かったので手をあげたところ、予想に反して麻酔を増やしてくれ痛みのないまま治療が進められていった。

痛みのないおかげかキメラたちが僕を囲んで怪しげな儀式をしている絵を頭に浮かべるなどして笑いそうになったり、歯をゴリゴリされながらコンサルの仕事があるのは自分たちでは痛みの伴う選択が仕切れないからなんだろうなと考えたりしていた。

それでも音は怖い。そろそろ2020年も近いのだからそこらへんなんとかならないもんかと過剰なサービスを要求するクレーマーのようなことを思いながら治療は終わった。

終わってみるとさっきまで人類に恨みを持ったキメラに見えていた動物たちが見守ってくれている神様のように見えて人間の心理というものは都合がいいなと思った。病んでいる時は周りによく思われてないように感じるのもそういうことだろう。

この歯医者レポを書いている最中に麻酔が取れて鈍い痛みが増してきた。書き終わってから薬を飲もうと思っていたけど悠長なことを言っている痛みじゃないと今飲んできたところだ。

この痛みを前に神様たちがまたキメラに見えてきたので本当に感情は信用できない。みなさんはぜひ歯の治療は早めに行ってもらいたい。


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