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イマガイ先生が犯した罪と罰

イマガイ先生の記憶が僕を苦悩の沙汰へと追いやります。

あれは、僕が小学校6年生の初夏の晴れたプール日和の学校での出来事でした。

イマガイ先生は当時25歳の女の先生で、小学5年生の時から担任の先生として僕のクラスを受け持ってくれていて、6年生になっても引き続き担任の先生でした。

本名はイマガイカオリ。

イマガイ先生は、僕の視点から言うとスタイルは良いが顔は「中の下」でアゴの辺りに少しケロイドのようなアザがあり、本人は気にしているようには見えないけど、きっと気にしているんだと思います。

ある日、授業中にクラスのスズキ君が、イマガイ先生に尋ねました。

「イマガイ先生、そのアゴの辺りのアザってどうしたんですか?」

黒板に白チョークで文字を書いていた手が止まり、生徒たちに背を向けたまま一瞬、イマガイ先生が肩で息をしたのがわかった。

そして、生徒側へ振り向き、スズキ君に向かってつぶやいた。

「スズキ君、そう言うことは、口にしたら、、」

そこから言葉がつかえてしまい、そのまま黒板に向き直り、授業を続けたのです。

性格的には決してネクラではなく、放課後などは生徒とも談笑したりするイマガイ先生。

そんなイマガイ先生は夏のプールの授業の際に、ぴちぴちの水着をつけてくることが男子の間でも話題になっていた。

今みたいな競泳水着のように、膝まで着衣するようなものではなく、ハイレグの類です。

お世辞にもそこまでキレイとは言えない先生の顔と、それでいてスタイルはまあまあ良くて、スラッとキレイな足を覗かせる、ボディラインのくっきり見えるイマガイ先生の全体の水着の容姿は、そのアンバランスさゆえに、性癖的に少しクセのある僕にとって悩ましい限りでした。

いつしか僕がプールを楽しみにする目的は、イマガイ先生のその水着の容姿を盗み見る淡い恍惚感を感じることになっていた。

そしてその日も、プールの授業があった。

初夏を過ぎ、本格的に蝉の大合唱が裏山から鳴り響く昼過ぎの炎天下、僕たちは水着に着替え、プールサイドのエリアに集まり、授業開始のチャイムが鳴るのをお喋りをしながら待っていた。

そしてチャイムが鳴る数分前にいつものようにイマガイ先生はやってきた。

その恍惚さゆえに僕は、目の前がチカチカと白くボヤけ、先生の黒のベースにピンクの模様が入った水着を蜃気楼のように眺めていた。

体操が始まった時点で僕の胸はすでにドキドキしていた。

誰かがこの僕のドキドキした想いに気づくのではないか。

胸の開いた衣服を着ることが多いイマガイ先生は、保護者からの評判はそこまで良くなく、男子生徒、女子生徒からも煙たく思われていたくらいだ。

そんな皆から敬遠されるような先生であればこそ、僕は逆説的に彼女のボディラインとアゴのキズの痕がセクシーに見えてきて、心奥から何か生物としての根源的欲望をくすぐられるような気がしていた。

表面上は、僕も男友達に合わせて、先生のことを嫌っている風を装っていたが、本当の思いはまた違うところにあり、その思いは今この瞬間、リニアに高鳴るどころか、二次関数的な勢いで、盛り上がっていた。

あぁ、先生、ヤバいですよ。

キケンな真夏のワンシーンの中に切り取られたその描写からは垣間見ることのできない疼き(うずき)が確かに僕の中にはあり、その原因を作ったイマガイ先生を憎みそうになっていた。

先生のそのアンバランスな存在が僕を苦しめている。

先生のその、「女」としての不完璧さが僕を逆説的に惑わせている。

それは罪だ、先生の存在が罪なんだ。

僕はそう思った。

そして、先生に罰を与えたいと思った。

でもこの場ではできない。

いつか先生に、2人きりになった瞬間に僕から罰を与えようと思う。

この思いは誰に気づかれるでもなく、心の内奥にしまっておこうと思う。

イマガイ先生が犯した罪と、それが故に僕が彼女に与えたい罰の思いは、プールサイドで賑やかに戯れる生徒たちの歓声と、幾多のセミの大合唱の中に静かに溶けていくのであった。

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