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ごーせんの掌編小説

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手のひらにおさまる感情と追憶、記憶を吹きかけてあなたの鼻梁へ香りを飛ばします。
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「明大前」という病

「明大前」という病

終電間近の明大前駅を、男女5人組の学生が-おそらく明大前生だろう-改札へ猛ダッシュしている姿を目撃し、涙が流れてきた。

あぁ、時間が経ってしまったんだな。

もう僕にはあんな風に、終電めがけて突っ走っていくという、シチュエーションに出会うことはないだろう。

終電間際に猛ダッシュするというオプションが、いつの間にやら無意識のうちになのか、はっきりとは分からないが僕の中から選択肢として消え去ってい

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田中、会社辞めるってよ

田中、会社辞めるってよ

「田中、会社辞めるってよ」

コピー機で書類をスキャンしながら、オレは中山に耳打ちするように囁いた。

「え、マジすか!?」

少し驚いたような拍子抜けしたような表情で中山はオレの方を向いた。

青天の霹靂、というやつか。

田中が青井部長からパワハラを受けているとオレに相談があったのは、今回の現場の件より以前の話だ。

しかし今回、現場で青井部長と喧嘩して、田中の堪忍袋の緒が切れて何も言わずに帰

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パノプティコンを押し通せ

パノプティコンを押し通せ

一般論的に考察して出口のないトンネルを通ろうなんて人間は最初(ハナ)からいないだろう。

御多分に洩れず僕も、自己啓発書を読み漁り、自己肯定感を二次曲線的に高めに高めた上で、ITでのし上がってやろうという、夢と野望という名の「妄想」を膨らませ、鼻の下を想像以上に伸ばし切った状態で東京に来た、否、「上京」してきた中二病継続中の身だった。

ナポレオン・ヒルのおっちゃんよ、今に見ていろ。不屈の精神力で

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偏見と妄想のガタンゴトン

偏見と妄想のガタンゴトン

6月下旬の蒸し暑く、空がどんより曇っていた日の早朝7時45分の出来事だった。

家を出た私は2人の娘を最寄り駅までの道中にある保育園に預け、最寄り駅までの道のりを急いでいた。

高級住宅街とマンションのある歩道を早足で歩く人をさらに早足で抜かし、地元の人のみぞ知るような駅まで細い近道をすり抜け、踏み切りのカンカンと鳴り響く遮断機の、ゆっくりと威圧的に降りてくる遮断棹をすり抜けて線路と反対側の駅の出

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