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「和人と天音」

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note最初の小説です。
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連載小説「和人と天音」(1)

 和人  風の強い朝だった。四月だというのに季節はずれの冷んやり湿った風が海から吹きつけ…

連載小説「和人と天音」(4)

 作文教室は、近くに住むじいちゃんの年下の知り合いが始めた。その人は、じいちゃんが数年前…

連載小説「和人と天音」(5)

 天音  母が死んでから一週間が過ぎた。  十年ぶりに一緒に暮らし始めた「父」の家で、五…

連載小説「和人と天音」(6)

 新しい学校の担任は岡田という三十代の男性教員だった。  天音を、最初にクラスの皆に紹介…

連載小説「和人と天音」(7)

 翌朝、天音が教室に入ると黒板の前に男女の生徒がかたまっていた。男子の中には肘で隣の子を…

連載小説「和人と天音」(8)

「いらっしゃいませ」店頭で元気の良い声が響いた。先輩アルバイトの響の声だった。音域が広く…

連載小説「和人と天音」(9)

 和人    梅雨の雨が三日続いていた。激しく降るわけではないが、小止みになったかと思うとすぐにまたしとしと降り続けるしつこい雨だった。ベランダにじいちゃんが鉢植えしている紫陽花が淡い空色の細かな花びらを開いていた。霧のような雨に濡れても、なんだかうれしそうで生き生きして見えた。  和人は小降りになった雨空を眺めていた。拳法の練習に行こうかどうしようか迷っていた。和人の拳法の師匠はじいちゃんだった。じいちゃんは若い頃ある流派の拳法を学び、免許を取れるところまで上達してから、あ

連載小説「和人と天音」(10)

 和人の部屋にはコラージュ用に雑誌や新聞の広告チラシなどから切り抜いた写真やイラストをフ…

連載小説「和人と天音」(11)

 作文教室の桑田先生は、まだ三十歳になっていない。和人のじいちゃんの元同僚で、じいちゃん…

連載小説「和人と天音」(12)

 天音 「いらっしゃいませ」  一人の男性客が足早に店に入ってきた。岡田だった。その時、…

連載小説「和人と天音」(13)

 二度目に店に来てから、学校で岡田が天音を見る視線がはっきり変わったような気が天音はして…

連載小説「和人と天音」(14)

「いらっしゃいませ」  低い陰気な声だった。これなら、あたしたちの方がずっと気持ちのいい…

連載小説「和人と天音」(15)

和人  七月にじいちゃんが入院した。なんの病気だか和人は知らない。いくら聞いても、母がは…

連載小説「和人と天音」(16)

「来たよ」  ある日、いつものように和人が学校帰りに病院に寄ると、病室の中に母がいた。じいちゃんのベッドの横、じいちゃんの頭のすぐ隣りの丸椅子に座って、白髪が長く伸びてどっかの山奥で修行している道士のようなじいちゃんの頭に顔を寄せて、ひそひそ小声で何か話していた。  和人の声を聞くとすぐに母は話をやめ、じいちゃんは、「うん」と小さく和人に答えた。じいちゃんも母も黙っていた。座れとも、外で待っていろとも言わなかった。和人は一瞬どうしようかと思ったが、問いかけるように母に見た。母