連載小説「和人と天音」(16)
「来たよ」
ある日、いつものように和人が学校帰りに病院に寄ると、病室の中に母がいた。じいちゃんのベッドの横、じいちゃんの頭のすぐ隣りの丸椅子に座って、白髪が長く伸びてどっかの山奥で修行している道士のようなじいちゃんの頭に顔を寄せて、ひそひそ小声で何か話していた。
和人の声を聞くとすぐに母は話をやめ、じいちゃんは、「うん」と小さく和人に答えた。じいちゃんも母も黙っていた。座れとも、外で待っていろとも言わなかった。和人は一瞬どうしようかと思ったが、問いかけるように母に見た。母